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平家物語原文全集「二代后 1」 |
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著作名:
古典愛好家
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昔より今に至るまで、源平両氏、朝家(ちょうけ)に召しつかはれて、王化に従はず、自づから朝権を軽んずる者には、互ひに戒(いまし)めをくはへしかば、世の乱れもなかりしに、保元に為義(ためよし)斬られ、平治に義朝(よしとも)誅(ちゅう)せられて後は、末々の源氏ども、或(ある)ひは流され、或ひは失はれ、今は平家の一類のみ繁昌して、頭(かしら)を差し出だす者なし。いかならん末の代までも何事かあらんとぞ見えし。されども鳥羽院(とばいん)御晏駕(ごあんか)の後は、兵革(ひょうかく)うち続き、死罪、流刑、欠官、停任、常に行はれて、海内(かいだい)も静かならず、世間もいまだ落居(らっきょ)せず。就中(なかんづく)に、永暦、応保の頃よりして、院の近習者をば内より御戒(おんいまし)めあり、内の近習者をば院より戒めらるる間、上下おそれをののいて、やすい心もなし。ただ深淵にのぞんで、薄氷を踏むに同じ。主上、上皇父子の御間には、何事の御へだてかあるべきなれども、思ひの外の事どもありけり。これも世澆季におよんで、人梟悪を先とする故なり。主上、院の仰せを常に申しかへさせおはしましける中にも、人耳目を驚かし、世を以て大きにかたぶけ申す事ありけり。
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