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蜻蛉日記原文全集「京へ物しやるべきことなどあれば」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

京へ物しやるべきことなどあれば

京へ物しやるべきことなどあれば、人いだしたつ。大夫

「よべのいとおぼつかなきを、御門の辺にて御けしきもきかむ」


とて物すれば、それにつけて文(ふみ)物す。

「いとあやしうおどろおどろしかりし御ありきの、夜もやふけぬらんと思ひ給へしかば、ただ仏を、

「おくりきこえさせ給へ」

とのみ祈りきこえさせつる。さてもいかにおぼしたることありてかはと思う給へれば、今はあまえいたくて、まかり帰らんこともかたかるべき心ちしける」


など、こまかに書きて、はしに

「むかしも御覽ぜし道とは見給へつつまかりいりしかど、たぐひなく思ひやりきこえさせし。今いととくまかでぬべし」


と書きて、こけついたる松の枝につけてものす。

あけぼのを見れば、霧か雲かとみゆる物たちわたりて、あはれに心すごし。昼つかた、出でつる人かへり来(き)たり。

「御文は、いでたまひにければ、男どもにあづけてきぬ」


とものす。さらずとも返りごとあらじと思ふ。




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