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蜻蛉日記原文全集「またおなじつごもりに」 |
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著作名:
古典愛好家
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蜻蛉日記
またおなじつごもりに
またおなじつごもりに、ある所に、おなじやうにてまうでけり。二はさみづつ、下のに、
神やせくしもにやみくづつもるらん 思ふこころのゆかぬみたらし
又、
さかきばのときはかきはにゆふしでや かたくるしなるめなみせそ神
また、上(かみ)のに
いつしかもいつしかもとぞまちわたる もりのこまよりひかりみむまを
また、
ゆふだすきむすぼぼれつつなげくこと たえなばかみのしるしとおもはん
などなん、神の聞かぬところに、聞こえごちける。秋はてて、冬はついたちつごもりとて、あしきもよきもさわぐめるものなれば、ひとり寝のやうにてすぐしつ。
三月つごもりがたに、かりの卵(こ)の見ゆるを、
「これを十づつかさぬるわざを、いかでせん」
とて、手まさぐりに、生絹(すずし)の糸を長うむすびて、一つむすびては結ひ、結ひしてひきたてたれば、いとようかさなりたり。
「なほあるよりは」
とて、九條殿女御殿御方にたてまつる。卯の花にぞつけたる。なにごともなく、ただ例の御ふみにて、はしに、
「この十かさなりたるは、かうてもはべりぬべかりけり」
とのみきこえたる御かへり、
かずしらずおもふ心にくらぶれば とをかさぬるもものとやは見る
とあれば、御かへり
おもふほどしらではかひやあらざらん かへすがへすもかずをこそみめ
それより五の宮になんたてまつれ給ふときく。
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