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蜻蛉日記原文全集「年かへりて」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

年かへりて

年かへりて、三月ばかりにもなりぬ。桃の花などやとりまうけたりけん、待つに見えず、いま一方も、例はたち去らぬ心地に、今日(けふ)ぞ見えぬ。

さて四日のつとめてぞみな見えたる。昨夜(よべ)より待ち暮らしたるものども、

「なほあるよりは」


とて、こなたかなた取り出でたり。心ざしありし花をおりて、うちの方よりあるを見れば、心ただにしもあらで、手ならひにしたり。

まつほどのきのふすぎにしはなのえは けふをることぞかひなかりける

と書きて、よしやにくきにと思ひてかくしつる気色をみて、奪(ば)ひとりて返ししたり。


みちとせをみつべきみにはとしごとに すくにもあらぬはなとしらせん

とあるを、いま一方にも聞きて、

はなによりすくてふことのゆゆしきに よそながらにてくらしてしなり




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