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枕草子 原文全集「成信の中将こそ/大蔵卿ばかり」 |
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著作名:
古典愛好家
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成信の中将こそ、人の声はいみじうよう聞きしり給ひしか。おなじ所の人の声などは、つねに聞かぬ人はさらにえ聞きわかず、ことに男は、人の声をも手をも、見わき聞きわかぬものを、いみじうみそかなるも、かしこう聞きわき給ひしこそ。
大蔵卿ばかり耳とき人はなし。まことに、蚊のまつげの落つるをも聞きつけ給ひつべうこそありしか。
職の御曹司の西面に住みしころ、大殿の新中将、宿直(とのゐ)にて、ものなどいひしに、そばにある人の、
「この中将に扇の絵のこといへ」
とささめけば、
「いま、かの君のたち給ひなむにを」
といとみそかにいひ入るるを、その人だにえ聞きつけで、
「何とか、何とか」
と耳をかたぶけ来(く)るに、とをくゐて、
「にくし。さのたまはば、けふはたたじ」
とのたまひしこそ、いかで聞きつけ給ふらむと、あさましかりしか。
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