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枕草子 原文全集「上の御局の御簾の前にて」 |
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著作名:
古典愛好家
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上の御局の御簾の前にて
上の御局の御簾(みす)の前にて、殿上人、日一日、琴笛吹き遊びくらして、大殿油(おほとなぶら)まゐるほどに、まだ御格子はまゐらぬに、大殿油さし出でたれば、戸のあきたるがあはらなれば、琵琶の御琴をたたざまに持たせ給へり。くれないゐの御衣どもの、いふも世のつねなる袿(うちぎ)、また、張りたるどもなどをあまた奉りて、いとくろうつややかなる琵琶に、御袖をうちかけて、とらへさせ給へるだにめでたきに、そばより、御ひたひのほどの、いみじうしろうめでたくけざやかにて、はつれさせ給へるは、たとふべき方ぞなきや。ちかくゐ給へる人にさし寄りて、
「なかば隠したりけむは、えかくはあらざりけむかし。あれはただ人にこそはありけめ」
といふを、道もなきにわけまゐりて申せば、笑はせ給ひて、
「別れはしりたりや」
となむ仰せらるるもいとをかし。
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