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平家物語原文全集「少将乞請 5」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

少将乞請

少将待ち受け奉りて、

「さていかが候ひつる」


と申されければ、

「入道あまりに腹を立てて、教盛にはつひに対面もし給はず。かなふまじき由しきりりにのたまひつれ共、出家入道まで申したればにやらん、しばらく宿所にをき奉れとのたまひつれ共、始終よかるべしともおぼえず」


少将、

「さ候へばこそ、成経は御恩をもって、しばしの命ものび候はんずるにこそ。それにつき候ひては、大納言が事をば、いかがきこしめされ候」


「それまでは思ひもよらず」


とのたまへば、その時涙をはらはらと流いて、

「誠に御恩をもって、しばしの命もいき候はんずる事は、しかるべう候へ共、命の惜しう候ふも、父を今一度見ばやと思ふためなり。大納言が斬られ候はんにをいては、成経とてもかひなき命を生きて何にかはし候ふべき。ただ一所でいかにもなるやうに申てたばせ給ふべうや候らん」


と申されければ、宰相よにも心苦しげにて、

「いさとよ、御辺の事をこそとかう申しつれ。それまでは思ひもよらねども、大納言殿の御事をば、今朝内の大臣のやうやうに申されければ、それもしばしは心安いやうにこそ承はれ」


とのたまへば、少将泣く泣く手を合はせてぞ悦ばれける。

「子ならざらん者は、誰かただ今我が身の上を差し置ひてこれほどまでは悦ぶべき。まことの契りは親子の中にぞありける。子をば人の持つべかりけるものかな」


とぞ、やがて思ひ返されける。さて今朝のごとくに同車して帰られけり。宿所には、女房たち、死んだる人の生き返りたる心して、さしつどひて皆悦び泣きどもせられけり。

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・平家物語原文全集「少将乞請 5」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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