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平家物語原文全集「一行阿闍梨之沙汰 6」
著作名: 古典愛好家
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平家物語

一行阿闍梨之沙汰

大衆、先座主をば、東塔の南谷、妙光坊に入れ奉る。時の横災は、権化の人ものがれ給はざるやらん。昔大唐の一行阿闍梨は玄宗皇帝の護持僧にておはしけるが、玄宗の后、楊貴妃に名を立ち給へり。昔も今も、大国も小国も、人の口のさがなさは、跡かたなき事なりしかども、その疑ひによって、果羅国へ流され給ふ。件の国へは三つの道あり。輪地道とて御幸道、幽地道とて雑人の通ふ道、暗穴道とて重科の者をつかはす道なり。さればかの一行阿闍梨は大犯の人なればとて、暗穴道へぞつかはしける。七日七夜が間、月日の光を見ずして行く道なり。冥々として人もなく、行歩に前途迷ひ、深々として山深し。ただ澗谷に鳥の一声ばかりにて、苔の濡れ衣ほしあへず。無実の罪によって、遠流の重科をかうむる事を、天道あはれみ給ひて、九耀のかたちを現じつつ、一行阿闍梨を守り給ふ。時に一行右の指を食ひ切って、左のたもとに九耀のかたちを写されけり。和漢両朝に、真言の本尊たる九耀曼陀羅これなり。



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