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蜻蛉日記原文全集「しのびたるかたに、いざ」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

しのびたるかたに、いざ

「しのびたるかたに、いざ」


とさそふ人もあり、

「なにかは」


とてものしたれば、人おほうまうでたり。誰としるべきにもあらなくに、我ひとりくるしう、かたはらいたし。祓(はらへ)などいふところに、垂水(たるみ)いふかたなうしたり。をかしうもあるかなと見つつかへるに、おとななるものの、わらは装束して、髪をかしげにてゆくあり。みれば、ありつる氷を単衣(ひとへ)のそでにつつみ持たりて食ひゆく。ゆえあるものにやあらんと思うほどに、わがもろともなる人、ものをいひかけたれば、氷(ひ)くくみたる声にて、

「丸をのたまふか」


といふをきくにぞ、なをものなりけりとおもひぬる。かしらついて、

「これは食はぬ人は思ふことならざるは」


といふ。

「まがまがしう、さいふものの袖ぞぬらすめる」


とひとりごちて、又思ふやう、

わがそでのこほりははるもしらなくに 心とけても人の行かな



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