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枕草子 原文全集「二月、官の司に」 |
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著作名:
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二月、官の司に定考といふことすなる、なにごとにかあらむ。孔子などかけたてまつりてすることなるべし。聡明とて、上にも宮にも、あやしきもののかたなど、かはらけにもりてまゐらす。
頭弁の御もとより、主殿寮(とものづかさ)、絵などやうなるものを、白き色紙につつみて、梅の花のいみじう咲きたるにつけて持てきたり。絵にやあらむと、いそぎとり入れて見れば、餅餤(へいだん)といふものを、二つならべてつつみたるなりけり。添へたる立文には、解文のやうにて、
進上
餅餤一包
例に依て進上如件(くだんのごとし)
別当 少納言殿
とて、月日かきて、「任那成行(みまなのなりゆき)」とて、奥に、
「このをのこは、みづからまゐらむとするを、昼はかたちわろしとて、まゐらぬなめり」
と、いみじうをかしげにかひ給へり。
御前に参りて御覧ぜさすれば、
「めでたくもかきたるかな。をかしくしたり」
などほめさせ給ひて、解文はとらせ給ひつ。
「返事(かへりごと)いかがすべからむ。この餅餤持てくるには、ものなどやとらすらむ。しりたらむ人もがな」
といふをきこしめして、
「惟仲が声のしつるを。呼びてとへ」
とのたまはすれば、端に出でて、
「左大弁にものきこえむ」
とさぶらひしてよばせたれば、いとよくうるはしくしてきたり。
「あらず、私事なり。もし、この弁、少納言などのもとに、かかる物持てくるしもべなどは、することやある」
といへば、
「さることも侍らず。ただとめてなむ、くひ侍る。なにしに問はせ給ふぞ。もし上官のうちにてえさせ給へるか」
と問へば、
「いかがは」
といらへて、返事を、いみじうあかき薄様に、
「みづから持てまうでこぬしもべは、いと冷淡なり、となむみゆめる」
とて、めでたき紅梅につけてたてまつりたる、すなはち、をはして、
「しもべさぶらふ。しもべさぶらふ」
とのたまへば、出でたるに、
「さやうのもの、そらよみしておこせ給へると思ひつるに、びびしくもいひたりつるかな。女の、すこし我はと思ひたるは、歌よみがましくぞある。さらぬこそ語らひよけれ。まろなどに、さることいはむ人、かへりて無心ならむかし」
などのたまふ。則光なりやなど、笑ひてやみにしことを、上の御前に人々いとおほかりけるに、かたり申し給ふ。
「『それはよくいひたり』となむのたまはせし」
と、また人の語りしこそ、見苦しき我ぼめどもなりかし。
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