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蜻蛉日記原文全集「さて夜は明けぬるを」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

さて夜は明けぬるを

さて夜は明けぬるを、

「人などめせ」


といへば、

「なにか。又(まだ)いと暗からん。しばし」


とてあるほどにあかうなれば、男どもよびて、蔀(しとみ)あげさせて見つ。

「見給へ。草どもはいかがうゑたる」


とて見出だしたるに、

「いとかたはなるほどになりぬ」


などいそげば、

「なにか。いまは粥などまゐりて」


とあるほどに、昼になりぬ。さて、

「いざ、もろともに帰りなん。またはものしかるべし」


などあれば、

「かくまゐり来たるをだに、人いかにと思ふに、御むかへなりけりと見ば、いとうたてものしからん」


といへば、

「さらば、男ども、車よせよ」


とて、よせたれば、のるところにもかつがつとあゆみ出でたれば、いとあはれと見る見る、

「いつか、御ありきは」


などいふほどに、涙うきにけり。

「いと心もとなければ、明日あさてのほどばかりにはまゐりなん」


とて、いとさうざうしげなる気色なり。すこし引きい出でて牛かくるほどに見通せば、ありつるところにかへりて、見おこせて、つくづくとあるを見つつ引き出づれば、心にもあらでかへりみのみぞせらるるかし。さて、昼つかた、文あり。なにくれとかきて、

かぎりかとおもひつつこしほどよりも なかなかなるはわびしかりけり

かへりごと、

「なほいとくるしげにおぼしたりつれば、今もいとおぼつかなくなん。なかなかは、

われもさぞのどけきとこのうらならで かへるなみぢはあやしかりけり


さてなほくるしげなれど、念じて、二三日のほどに見えたり。やうやう例のやうになりもてゆけば、例のほどにかよふ。




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