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平家物語原文全集「山門滅亡 堂衆合戦 4」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

山門滅亡 堂衆合戦

その後は山門いよいよ荒れ果てて、十二禅衆のほかは、止住の僧侶も稀なり。谷々の講演磨滅して、堂々の行法も退転す。修学の窓を閉ぢ、座禅の床を空しうせり。四教五時の春の花も匂はず、三諦即是の秋の月もくもれり。三百余歳の法灯を挑る人もなく、六時不断の香の煙も絶やしぬらむ。堂舎高くそびへて三重の構へを青漢の内に差し挿み、棟梁遥かに秀でて四面の椽を白霧の間にかけたりき。されども今は、供仏を嶺の嵐に任せ、金容を紅瀝に潤す。夜の月灯を掲げて、檐の隙より漏り、暁の露珠を垂れて、蓮座の粧を添ふとかや。それ末代の俗に至つては、三国の仏法も次第に衰微せり。遠く天竺に仏跡をとぶらへば、昔仏の法を説き給ひし竹林精舎、給孤独園も、この比は狐狼野干の栖となつて、礎のみや残るらむ。白鷺池には水絶えて草のみ深く茂れり。退梵、下乗の卒都婆も苔のみむして傾きぬ。震旦にも天台山、五台山、白馬寺、玉泉寺も、今は住侶なき様に荒れ果てて、大小乗の法門も箱の底にや朽ちぬらむ。我が朝にも南都の七大寺荒れ果てて、八宗九宗も跡絶え、愛宕、高雄も昔は堂塔軒を並べたりしかども、一夜の内に荒れにしかば、天狗の栖となり果てぬ。さればにや、さしもやんごとなかりつる天台の仏法も、治承の今に及んで滅び果てぬるにや。心ある人嘆きかなしまずといふことなし。離山しける僧の坊の柱に歌をぞ一首書いたりける。

いのりこし我がたつ杣のひきかへて人なき嶺とあれやはてなむ

これは、昔伝教大師、当山草創の昔、阿耨多羅三藐三菩提の仏たちに祈り申されける事を思ひ出でて詠みたりけるにや。いとやさしうぞ聞こえし。八日は薬師の日なれども、南無と唱ふる声もせず。卯月は垂跡の月なれども、幣帛を捧ぐる人もなし。あけの玉垣かみさびて、しめの縄のみや残るらむ。


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・平家物語原文全集「山門滅亡 堂衆合戦 4」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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