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平家物語原文全集「祇王 7」 |
著作名:
古典愛好家
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平家物語
祇王
祇王もとより思ひまふけたる道なれども、さすがに昨日今日とは思ひよらず。いそぎ出づべき由、しきりにのたまふあひだ、掃き拭ひ塵拾はせ、見苦しき物共とりしたためて、出づべきにこそ定まりけれ。一樹のかげにやどりあひ、おなじ流れをむすぶだに、別れはかなしきならひぞかし。ましてこの三年(みつとせ)が間、住みなれし所なれば、名残もおしうかなしくて、かひなき涙ぞこぼれける。さてもあるべきことならねば、祇王すでに、今はかうとて出でけるが、なからん跡の忘れ形見にもとやと思ひけむ。障子になくなく一首の歌をぞかきつけける。
萌え出づるも枯るるも同じ野辺の草 いづれか秋にあはではつべき
さて、車に乗つて宿所に帰り、障子のうちに倒れ臥し、ただ泣くより外のことぞなき。母やいもうと是を見て、
「いかにやいかに」
と問ひけれ共、とかうの返事にも及ばず。供 (ぐ)したる女に尋ねてぞ、去事 (さること)ありとも知りてんげれ。
さるほどに毎月に送られたりける、百石・百貫をも今はとどめられて、仏御前が所縁 (ゆかり)の者共ぞ、始めて楽しみ栄えける。京中の上下、
「祇王こそ入道殿よりいとま給はって出でたんなれ。いざ見参してあそばむ」
とて、或いは文をつかはす人もあり、或いは使を立つる者もあり。祇王さればとて、今更人に対面してあそびたはぶるべきにもあらねば、文をとりいるる事もなく、まして使にあひしらふ迄もなかりけり。これにつけてもかなしくて、いとど涙にのみぞ沈みにける。
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