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平家物語原文全集「禿髪(かぶろ・かむろ) 2」 |
著作名:
古典愛好家
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平家物語
禿髪(かぶろ・かむろ)
また、いかなる賢王賢主の御政(おんまつりごと)も、摂政関白の御成敗も、世にあまされたるいたづら者なんどの、人の聞かぬ所にて、何となうそしり傾け申すことは、常の習ひなれども、この禅門世ざかりのほどは、いささかいるかせにも申す者なし。その故は、入道相国のはかりごとに、十四五六の童部を、三百人そろへて、髮をかぶろにきりまはし、赤き直垂(ひたたれ)を着せて召しつかはれけるが、京中に満ち満ちて、往反しけり。おのづから、平家のことあしざまに申す者あれば、一人(いちにん)聞き出さぬほどこそありけれ、余党にふれ廻(めぐら)して、その家に乱入し、資材雜具を追捕し、その奴をからめ取つて、六波羅へ率て参る。されば目に見、心に知るといへど、詞にあらはれて申す者なし。六波羅殿の禿(かぶろ)といひてんしかば、道を過ぐる馬車もよぎてぞとをりける。禁門を出入(しゅつにゅう)すといへども、姓名を尋ねらるるに及ばず、京師(けいし)の長吏、これがために目を側むと見えたり。
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