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枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の一
著作名: 古典愛好家
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君などいみじく化粧じ給ひて、紅梅の御衣ども、おとらじと着給へるに、三の御前は、御匣殿、中姫君よりもおほきに見え給ひて、上など聞こえむにぞよかめる。
 

上もわたり給へり。みき丁ひきよせて、あたらしうまゐりたる人々には見え給はねば、いぶせき心地す。
 

さしつどひて、かの日の装束、扇などのことをいひあへるもあり。また、挑み隠して、

「まろは、なにか。ただあらむにまかせてを」


などいひて、

「例の、君の」


などにくまる。よさりまかづる人おほかれど、かかるをりのことなれば、えとどめさせ給はず。
 

上、日々にわたり給ひ、夜もおはします。君たちなどおはすれば、御前人ずくなならでよし。御使日々にまゐる。御前の桜、露に色はまさらで、日などにあたりて、しぼみわろくなるだにくちをしきに、雨の、夜ふりたるつとめて、いみじく無徳なり。いととう起きて

「泣きて別れけむ顔に心おとりこそすれ」


といふを聞かせ給ひて、

「げに雨ふるけはひしつるぞかし。いかならむ」


とて、おどろかせ給ふほどに、殿の御かたより、侍のものども、下衆などあまた来(き)て、花の本にただよりによりて、ひき倒しとりて、みそかにゆく。

「まだ暗からむに、とこそ仰せられつれ。明け過ぎにけり。ふびんなるわざかな。とくとく」


と倒しとるに、いとをかし。

「いはばいはなむと、兼澄がことを思ひたるにや」


とも、よき人ならばいはまほしけれど、

「彼の花盗むは誰ぞ。あしかめり」


といへば、いとど逃げてひきもていぬ。なほ御心はをかしうおはすかし。枝どももぬれまつはれつきて、いかにびんなきかたちならましと思ふ。ともかくもいはでいりぬ。
 

掃司(かもんづかさ)まゐりて、御格子まゐる。殿司の女官御きよめなどにまゐりはてて、起きさせ給へるに、花もなければ、

「あなあさまし。あの花どもは、いづちいぬるぞ」


と仰せらる。

「あかつきに『花盗人あり』といふなりつるを、なほ枝などすこしとるにや、とこそ聞きつれ。誰(た)がしつるぞ、見つや」


と仰せらる。

「さも侍らず。まだ暗うてよくも見えざりつるを、白みたるものの侍りつれば、花を折るにやと、うしろめたさにいひ侍りつるなり」


と申す。

「さりともみなは、かういかでかとらむ。殿の、隠させ給へるならむ」


とて、笑はせ給へば、

「いで、よも侍らじ。春の風のして侍るならむ」


と啓するを、

「かういはむとて、隠すなりけり。盗みにはあらで、いたうこそふりなりつれ」


と仰せらるも、めづらしきことにはあらねど、いみじうぞめでたき。
 





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