|
|
|
|
|
更新日時:
|
|
![]() |
枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の一 |
|
著作名:
古典愛好家
46,940 views |
|
君などいみじく化粧じ給ひて、紅梅の御衣ども、おとらじと着給へるに、三の御前は、御匣殿、中姫君よりもおほきに見え給ひて、上など聞こえむにぞよかめる。
上もわたり給へり。みき丁ひきよせて、あたらしうまゐりたる人々には見え給はねば、いぶせき心地す。
さしつどひて、かの日の装束、扇などのことをいひあへるもあり。また、挑み隠して、
「まろは、なにか。ただあらむにまかせてを」
などいひて、
「例の、君の」
などにくまる。よさりまかづる人おほかれど、かかるをりのことなれば、えとどめさせ給はず。
上、日々にわたり給ひ、夜もおはします。君たちなどおはすれば、御前人ずくなならでよし。御使日々にまゐる。御前の桜、露に色はまさらで、日などにあたりて、しぼみわろくなるだにくちをしきに、雨の、夜ふりたるつとめて、いみじく無徳なり。いととう起きて
「泣きて別れけむ顔に心おとりこそすれ」
といふを聞かせ給ひて、
「げに雨ふるけはひしつるぞかし。いかならむ」
とて、おどろかせ給ふほどに、殿の御かたより、侍のものども、下衆などあまた来(き)て、花の本にただよりによりて、ひき倒しとりて、みそかにゆく。
「まだ暗からむに、とこそ仰せられつれ。明け過ぎにけり。ふびんなるわざかな。とくとく」
と倒しとるに、いとをかし。
「いはばいはなむと、兼澄がことを思ひたるにや」
とも、よき人ならばいはまほしけれど、
「彼の花盗むは誰ぞ。あしかめり」
といへば、いとど逃げてひきもていぬ。なほ御心はをかしうおはすかし。枝どももぬれまつはれつきて、いかにびんなきかたちならましと思ふ。ともかくもいはでいりぬ。
掃司(かもんづかさ)まゐりて、御格子まゐる。殿司の女官御きよめなどにまゐりはてて、起きさせ給へるに、花もなければ、
「あなあさまし。あの花どもは、いづちいぬるぞ」
と仰せらる。
「あかつきに『花盗人あり』といふなりつるを、なほ枝などすこしとるにや、とこそ聞きつれ。誰(た)がしつるぞ、見つや」
と仰せらる。
「さも侍らず。まだ暗うてよくも見えざりつるを、白みたるものの侍りつれば、花を折るにやと、うしろめたさにいひ侍りつるなり」
と申す。
「さりともみなは、かういかでかとらむ。殿の、隠させ給へるならむ」
とて、笑はせ給へば、
「いで、よも侍らじ。春の風のして侍るならむ」
と啓するを、
「かういはむとて、隠すなりけり。盗みにはあらで、いたうこそふりなりつれ」
と仰せらるも、めづらしきことにはあらねど、いみじうぞめでたき。
このテキストを評価してください。
|
役に立った
|
う~ん・・・
|
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。 |
|
枕草子 原文全集「御前にて人々とも」
>
枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の二
>
枕草子 原文全集「虫は」
>
蜻蛉日記原文全集「いかなるをりにかあらん」
>
蜻蛉日記原文全集「さて寺へものせしとき」
>
蜻蛉日記原文全集「さて思ふに、かくだに思ひいづるもむつかしく」
>
更級日記 原文全集「あらましごと」
>
最近見たテキスト
|
枕草子 原文全集「関白殿、二月廿一日に」 其の一
10分前以内
|
>
|
























