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平家物語原文全集「祇王 10」
著作名: 古典愛好家
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平家物語

祇王

独り参らむは、余りに物憂しとて、いもうとの祇女をもあひぐりしけり。そのほか拍子二人、総じて四人、ひとつ車にとりのって、西八条へぞ参りたる。さきざき召されける所へはいれられず、はるかにさがりたる所に、座敷しつらふて置かれたり。祇王、

「こはさればなに事さぶらふぞや。我が身にあやまつ事はなけれども、捨てられたてまつるだにあるに、座敷をさへさげらるることの心憂さよ。いかにせむ」


と思ふに、知らせじとおさふる袖のひまよりも、あまりて涙ぞこぼれける。仏御前これを見て、あまりにあはれに思ひければ、

「あれはいかに、日頃召されぬところでもさぶらはばこそ、これへ召されさぶらへかし。さらずはわらはにいとまをたべ。出で見参せん」


と申しければ、入道、

「すべてその儀あるまじ」


とのたまふ間、力及ばで出でざりけり。


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