マラーター王国は、マラーター同盟としても知られ、近世インド亜大陸に存在した国家です。 17世紀に台頭し、18世紀にはインド亜大陸の大部分を支配しました。 この帝国は、現在のマハーラーシュトラ州出身のマラーティー語を話す戦士集団であるマラーターによって建国されました。

マラーターの台頭は、17世紀の指導者シヴァージーの登場とともに本格化しました。 当時のデカン高原は、北インドの大部分を支配するムガル帝国と、複数のデカン・スルターン朝によって分割統治されていました。 シヴァージーは、ビジャープル・スルターン朝とムガル帝国に対して反乱を起こし、「ヒンドゥーの自治」を意味する「ヒンダヴィー・スワラージヤ」の確立を目指しました。 彼は、マラーティー語を話す農民層を率いて、この運動を主導しました。
シヴァージーの父であるシャハージーは、マラーターの将軍であり、その母ジジャバイは、シヴァージーに土地と人々に対する誇りと責任感を教え込み、彼の初期の人生に大きな影響を与えました。 1645年、シヴァージーはわずか16歳で忠実な支持者を集め、トルナ城塞を攻略し、マラーター王国の建国に向けた第一歩を踏み出しました。 これに続き、彼は多くの城塞を次々と占領し、その地域を自らの支配下に置きました。 ゲリラ戦術を駆使し、機動性の高い農民や牧畜民からなる軍隊を率いて、デカン・スルターン朝やムガル帝国、さらには西インドの港で活動していたイギリス東インド会社とも戦いました。
シヴァージーの軍事的天才と指導力は、彼をマラーター地域で伝説的な人物にしました。 彼は、ビジャープル・スルターン朝からアフザル・ハーンが派遣された際、これを大胆な方法で打ち破り、パンハーラーの強力な要塞を制圧しました。 1665年のプランダル条約の後、一時的にムガル帝国の家臣となりましたが、その後もマラーターの影響力を拡大し続けました。 1666年には、ムガル皇帝アウラングゼーブによってアーグラに投獄されましたが、機知と決断力で脱出に成功し、その名声をさらに高めました。
1674年6月6日、シヴァージーはライガッド城で戴冠式を行い、正式に「チャトラパティ（君主）」として即位しました。 これにより、独立したマラーター王国が正式に誕生し、ライガッドがその首都となりました。 彼の治世下で、マラーター王国はインド亜大陸の約4.1%を占める領土を支配するに至りました。 シヴァージーは、強力な統治システムを確立し、農業と貿易を奨励しました。 また、ペルシャ語に代わってマラーティー語とサンスクリット語の使用を促進し、ヒンドゥーの伝統を復活させました。




マラーター王国の統治制度は、中央集権的な権威、効率的な歳入管理、軍事規律、そして公共の福祉を重視する、非常によく組織されたものでした。 シヴァージーによって確立されたこのシステムは、デカン諸国の統治慣行、特にアフマドナガル王国のマリク・アンバルの改革から多くの影響を受けています。

マラーターの中央統治の頂点には、最高主権者であるチャトラパティが位置していました。 チャトラパティを補佐するために、「アシュタ・プラダーン」として知られる8人の大臣からなる評議会が設置されました。 これらの大臣はシヴァージーに直接報告を行い、王の政策を実行する上で大きな権限を与えられていました。
アシュタ・プラダーンの構成は以下の通りです。
ペーシュワー（首相）: 一般行政を担当し、王が不在の際には王の代理を務めました。 財政と王国全体の行政を監督する責任も負っていました。
アマーティヤまたはマズムダール（財務大臣）: 王国の会計を担当し、財政の健全性を管理しました。
サチーヴまたはシュルナヴィース（書記官）: 王室の書簡を管理し、公式文書を作成しました。
スマントまたはダビール（外務大臣）: 外交問題と王室の儀式を担当しました。
セーナーパティまたはサリ・イ・ナウバット（軍司令官）: 軍隊の採用、訓練、規律を監督しました。
マントリーまたはワキア・ナヴィース（内務大臣）: 王の身辺警護、諜報、郵便、家政などを担当しました。
ニャーヤーディーシュ（司法長官）: 司法行政を担当しました。
パンディット・ラーオ（宗教長官）: 王国の慈善事業や宗教問題を担当し、人々の道徳的向上に努めました。
パンディット・ラーオとニャーヤーディーシュを除くすべての大臣は、必要に応じて軍務に就く義務がありました。 このように、アシュタ・プラダーンは、行政と軍事の両面で王を支える重要な機関でした。

マラーターの領土は、プラーントと呼ばれる州に分割され、各州は総督または副王であるデシャディカリまたはマムラートダールによって統治されていました。 州はさらにタラフと呼ばれる地区に分けられ、タラフダールが管理しました。 最も低い行政単位は村（マウザ）で、その長であるパテールが率いていました。 シヴァージーは、役職の世襲制を抑制し、国家が任命した役人に置き換えることで、腐敗を防ぎ、効率性を高めようとしました。
ペーシュワー時代になると、プネーの中央官庁が統治の中心となり、地方からの歳入、支出、会計報告を管理しました。 地方では、マムラートダールやカマヴィスタールがペーシュワーの代理人として地区行政のあらゆる部門に責任を負いました。 彼らの活動を監視し、チェック・アンド・バランスの機能を果たすために、会計を担当するデシュムクやデシュパーンデーといった役人が置かれました。 また、公金の横領を防ぐため、マムラートダールなどの役人から多額の保証金（ラサド）を徴収する制度もありました。

シヴァージーは、封建的な慣行を排除し、土地からの歳入に対する国家の管理を確保することを目的とした、中央集権的で効率的な歳入制度を確立しました。 彼は、軍役や行政サービスの対価として土地を与えるジャーギール制を廃止し、役人や兵士に現金で給与を支払うことで、忠実で専門的な軍隊と官僚機構を育成しました。
土地測量には、マリク・アンバルのカティ制度に倣ったリョートワーリー制のようなシステムが導入されました。 土地は測量され、生産性に基づいて評価され、税率は生産高の約30～40%に固定されました。 農民（リョート）は政府と直接やり取りをすることができ、中間搾取者による腐敗が減少しました。
マラーターの歳入の重要な源泉は、「チャウタ」と「サルデシュムキ」という2つの税でした。
チャウタ: これは、マラーターの直接支配下にはないが、その勢力圏内にある近隣の領地から徴収される、総歳入の4分の1に相当する税でした。 この税金を支払う見返りとして、その地域はマラーター軍による侵略を受けないという保証を得ることができました。 チャウタの収入は、マラーター王と軍司令官の間で分配されました。
サルデシュムキ: これは、チャウタに加えて徴収される、総歳入の10%に相当する追加の税でした。 シヴァージーは、自らをその地域の世襲の長（サルデシュムク）であると主張し、この税を徴収する権利を正当化しました。
これらの税は、マラーターに安定した莫大な収入をもたらし、軍隊の維持と領土拡大のための資金源となりました。

マラーターの軍事力は、その勃興と拡大の原動力でした。シヴァージーは、規律正しく、よく組織された常備軍と海軍を創設し、現金で給与を支払う制度を導入しました。 彼の軍隊は、ゲリラ戦術に長けており、特に山岳地帯や森林地帯での戦闘でその能力を発揮しました。

シヴァージーの陸軍は、主に機動性の高い農民や牧畜民で構成されていました。 騎兵隊は「パーガ」として知られ、約3万から4万の兵力で構成され、ハワルダールによって管理されていました。 兵士には現金で給与が支払われ、司令官にはサランジャームと呼ばれる歳入の分配が行われました。 シヴァージーは、要塞の重要性を深く認識しており、その治世中に多数の丘陵要塞や海岸要塞を建設・修復しました。 これらの要塞は、防衛拠点としてだけでなく、行政の中心地としても機能しました。

シヴァージーの最も先見の明のある功績の一つは、海軍の創設です。 彼は、インドの支配者として近代で初めて、強力な海軍の戦略的重要性を認識しました。 1654年頃、カリヤーン近郊の小川で最初のマラーター海軍の船が建造され、主にジャンジラのシッディー勢力に対抗するために設立されました。
マラーター海軍の目的は、海岸の交易路を保護し、ポルトガル、イギリス東インド会社、シッディーなどの地域的・ヨーロッパ的な海軍勢力に対抗することでした。 シヴァージーは、「海を制する者は全能である」という信念を持っていました。 海軍は、ガリバットやグラブといった小型で機動性の高い船で構成され、沿岸や浅瀬の状況に適応した戦術を用いていました。 これらの船は、浅い喫水を持っており、大きな敵船が追跡できない小川や河口を航行することができました。
海軍は、ヴィジャイドゥルグやシンドゥドゥルグといった沿岸の要塞によって支えられていました。 これらの海軍要塞は、安全な港、造船所、修理施設、戦略的な監視所として機能しました。 カンホジ・アングレ提督のような指導者の下で、マラーター海軍はその影響力を拡大し、植民地時代の船舶輸送に挑戦し、海上貿易におけるマラーターの利益を主張しました。 マラーター海軍は、主に沿岸部で活動する「グリーンウォーター」海軍でしたが、ヨーロッパ勢力にとって大きな脅威となりました。

1707年にムガル皇帝アウラングゼーブが亡くなると、マラーターの勢力は再び活気を取り戻しました。 シヴァージーの孫であるシャーフーがムガル帝国から解放され、マラーターのチャトラパティとして即位しました。 シャーフーは、有能なバラモンであったバラジー・ヴィシュワナートをペーシュワー（首相）に任命しました。 これが、世襲制となるペーシュワー時代の幕開けでした。
バラジー・ヴィシュワナートは、シャーフーがシヴァージーの正当な後継者であり、マラーターのチャトラパティであることをムガル帝国に認めさせる上で重要な役割を果たしました。 1719年には、シャーフーの母イェスバイをムガル帝国の捕虜から解放することにも成功しました。 彼の外交手腕により、マラーターはデカン高原の6つのムガル州からチャウタとサルデシュムキを徴収する権利を獲得しました。
バラジー・ヴィシュワナートの息子であるバージー・ラーオ1世（在任1720-1740）の時代に、マラーターの力は頂点に達しました。 バージー・ラーオ1世は、卓越した軍事指導者であり、41回の戦いで一度も敗北しなかったと言われています。 彼は騎馬戦の達人であり、「デリーへ進軍せよ」という政策を掲げ、北インドへの積極的な拡大政策を推進しました。
彼の指導の下、マラーター軍はマルワ、グジャラート、ブンデルカンドを征服しました。 1728年のパルケドの戦いでは、ハイデラバードのニザームを打ち破り、その軍事的才能を示しました。 1737年にはデリーを襲撃し、ムガル帝国の弱体化を象徴する出来事となりました。 バージー・ラーオ1世はまた、マラーターの有力な一族であるガーイクワード家（バローダ）、ホールカル家（インドール）、シンディア家（グワーリヤル）、ボーンスレー家（ナーグプル）などを連合させ、それぞれに自治領を与えることで、マラーター同盟の体制を確立しました。 この同盟体制により、マラーターの支配はインド亜大陸の広範囲に及び、北はラージャスターンとパンジャーブ、東はベンガルとオリッサ、南はタンジョールにまで達しました。 1758年までには、現在のパキスタンにあるペシャワールにまで勢力を拡大しました。
バージー・ラーオ1世の死後、息子のバラジー・バージー・ラーオ（ナナサーヘブとしても知られる）がペーシュワーを継ぎました。彼の時代にもマラーターの拡大は続きましたが、同時に内部の対立も顕在化し始めました。1749年にシャーフー王が亡くなると、ペーシュワーは事実上の支配者となり、チャトラパティは名目上の存在となりました。

マラーターの急速な拡大は、1761年1月14日に起こった第3次パーニーパットの戦いによって大きな転換点を迎えました。 この戦いは、デリーの北約97キロメートルに位置するパーニーパットで、マラーター王国軍と、アフガニスタンのドゥッラーニー朝の侵略軍との間で行われました。
アフガン軍は、アフマド・シャー・ドゥッラーニー（アフマド・シャー・アブダーリーとしても知られる）に率いられ、インド国内のいくつかの同盟勢力の支援を受けていました。 主な同盟者には、ロヒラ族のアフガン人指導者ナジーブ・ウッダウラ、アワド太守のシュジャー・ウッダウラなどがいました。 一方、マラーター軍は、シク教徒、ジャート族、ラージプート族といった北インドの有力勢力からの支援を得ることができませんでした。
マラーター軍の総司令官は、ペーシュワーの従兄弟であるサダーシヴ・ラーオ・バーウでした。 彼は、ペーシュワーとチャトラパティに次ぐ第3位の権威者でした。 マラーター軍は、約4万5千から6万の兵士と、巡礼者など約20万人の非戦闘員を伴って北上しました。
戦いは数日間にわたり、12万5千人以上の兵士が参加する大規模なものでした。 当初、マラーター軍は優勢でしたが、戦況は次第にアフガン軍に有利に傾きました。アフガン軍の重騎兵と、より優れた火器（ジェザイルやザンブーラクと呼ばれる移動式の大砲）が、マラーター軍の軽装の砲兵と騎兵を圧倒しました。
戦闘の最終段階で、ペーシュワーの息子であり名目上の司令官であったヴィシュワース・ラーオが戦死すると、マラーター軍の士気は崩壊しました。 サダーシヴ・ラーオ・バーウも戦死し、マラーター軍は大敗を喫しました。 この戦いによる死者数は、戦闘で6万人から7万人に上り、戦後の虐殺でさらに数万人が命を落としたと推定されており、18世紀で最も多くの死者を出した戦いの一つとされています。
この敗北は、マラーター王国にとって壊滅的な打撃となりました。 北方への進出が頓挫し、帝国の威信は大きく損なわれました。 ペーシュワー、バラジー・バージー・ラーオは、この敗北の知らせを聞いて衝撃を受け、まもなく亡くなりました。 この戦いは、マラーターの支配力の弱体化を招き、後のイギリス東インド会社の台頭につながる権力の空白を生み出す一因となりました。

パーニーパットでの大敗は、マラーター王国の衰退の始まりを示す重要な出来事でした。 この敗北により、マラーター同盟の結束は弱まり、ペーシュワーの権威は失墜しました。 若きペーシュワー、マーダヴ・ラーオ1世（在任1761-1772）の有能な指導力により、マラーターは一時的に勢力を回復し、1771年にはマハーダージー・シンディアがデリーを奪還してムガル皇帝シャー・アーラム2世を復位させるなど、北インドでの影響力を取り戻しました。 しかし、1772年にマーダヴ・ラーオ1世が若くして亡くなると、ペーシュワーの中央集権的な権威は事実上終わりを告げ、内部の権力闘争が激化しました。

マーダヴ・ラーオ1世の死後、ペーシュワーの後継者を巡る争いが勃発し、マラーターの有力な諸侯（シンディア家、ホールカル家、ガーイクワード家、ボーンスレー家）は、より独立した行動をとるようになりました。 これらの諸侯間の嫉妬や対立は、同盟全体の力を著しく削ぎました。 特に、ペーシュワーの地位を巡るラグナート・ラーオ（ラゴバ）の野心は、深刻な内紛を引き起こし、これが第一次アングロ・マラーター戦争の引き金となりました。 有能な政治家であったナーナー・ファドナヴィースの死（1800年）は、マラーター同盟をまとめることができる最後の指導者を失ったことを意味し、さらなる混乱を招きました。

18世紀後半から19世紀初頭にかけて、インドにおける覇権を目指すイギリス東インド会社とマラーター王国との間で、3次にわたるアングロ・マラーター戦争が勃発しました。
第一次アングロ・マラーター戦争（1775-1782）: ラグナート・ラーオがペーシュワーの地位を得るためにイギリスに援助を求めたことから始まりました。 当初、イギリス軍は苦戦を強いられ、1779年のワドガオンでの戦いではマラーター軍に敗北しました。 しかし、最終的には戦況が膠着し、1782年のサルバイ条約によって終結しました。 この条約により、両者の間に一時的な平和がもたらされましたが、マラーターの内部対立は解決されませんでした。
第二次アングロ・マラーター戦争（1803-1805）: ペーシュワー、バージー・ラーオ2世がホールカル家との争いに敗れ、イギリスの保護を求めて1802年にバセイン条約を締結したことが原因で勃発しました。 この条約は、マラーターの主権を著しく制限するものであったため、シンディア家やボーンスレー家などが反発し、イギリスと開戦しました。 しかし、イギリス軍はアサイーの戦いなどでマラーター連合軍を破り、マラーターの力は大幅に削がれました。
第三次アングロ・マラーター戦争（1817-1818）: イギリスの支配強化に対するマラーター側の最後の抵抗でした。ペーシュワー、バージー・ラーオ2世が他のマラーター諸侯と結んでイギリスに反旗を翻しましたが、イギリス軍の前に敗北しました。 この戦争の結果、ペーシュワーの地位は廃止され、バージー・ラーオ2世は追放されました。 マラーター王国の領土の大部分はイギリスの直接統治下に置かれ、帝国は事実上崩壊しました。

マラーター王国の衰退には、複数の要因が絡み合っていました。
指導者の欠如: シヴァージーやバージー・ラーオ1世のようなカリスマ的で有能な指導者がいなくなったこと。
内部の不和: マラーター諸侯間の絶え間ない内紛と自己利益の追求が、国家としての統一性を損ないました。
組織構造の欠如: 王国全体を統括する明確な規則や指揮系統が確立されず、封建的な連合体の域を出ませんでした。
経済政策の失敗: 略奪に依存する経済システムから脱却し、安定した生産的な経済基盤を築くことができませんでした。
外交と政治的展望の欠如: イギリスの政治的・外交的な力を正しく評価できず、他のインド諸勢力と有効な同盟関係を築くことにも失敗しました。
軍事技術の遅れ: ゲリラ戦術には長けていましたが、ヨーロッパ式の訓練を受けた規律ある歩兵や最新の砲兵技術において、イギリスに劣っていました。
これらの要因が複合的に作用し、かつてインド亜大陸を席巻したマラーター王国は、1818年にイギリス東インド会社によってその歴史に幕を閉じることになりました。

マラーター王国の社会は、階層的でありながらも、ある程度の流動性を持っていました。経済は主に農業に依存していましたが、貿易も重要な役割を果たしていました。

マラーター社会は、封建的な性格を持ち、ペーシュワー、軍事指導者、バラモン、クシャトリヤ、農民などからなる階層構造が存在しました。 バラモンは、助言者、行政官、学者としての役割から高く尊敬されていました。 戦士階級であるクシャトリヤは、重要な政治的・軍事力を保持していました。
しかし、シヴァージーは能力主義を推進し、非バラモンコミュニティ出身の有能な人物を重要な行政職や軍事職に任命しました。 このため、戦闘や統治で功績を上げた者には、社会的な上昇の道が開かれていました。
女性の地位は、当時のインドの他の地域と比較して比較的良好でした。 例えば、インドールのホールカル家を治めたアヒリヤー・バーイー・ホールカルは、その優れた内政手腕で知られ、ジョン・マルコム卿のようなイギリス人からも賞賛されています。

マラーター王国の経済の基盤は農業でした。 ほとんどの人々は村に住み、農業に従事していました。 政府は、リョートワーリー制のようなシステムを通じて農民と直接関わり、安定した税収を確保しようとしました。
歳入の重要な柱は、前述のチャウタとサルデシュムキでした。 これらの税は、マラーターの支配領域外からも収入を得ることを可能にし、王国の軍事活動を財政的に支えました。
貿易もまた、経済において重要な役割を担っていました。シヴァージーは海軍を創設し、西海岸の港を確保することで、海上貿易の安全を確保し、関税収入を得ようとしました。 しかし、帝国全体として、経済を体系的に管理し、生産性を向上させるための長期的な政策は欠けていたと指摘されています。 経済的な弱さは、特に王国末期において、その衰退を加速させる一因となりました。

マラーター王国は、インドの歴史と文化に永続的な遺産を残しました。その影響は、政治、軍事、建築、そしてナショナリズムの形成など、多岐にわたります。

マラーターの建築様式は、要塞、宮殿、寺院にその特徴を見ることができます。シヴァージーは、ライガッド、プラタープガド、シンドゥドゥルグなど、数多くの堅牢な要塞を建設または改修しました。 これらの要塞は、戦略的な防衛拠点であると同時に、マラーターの権力と独立の象徴でもありました。特に、シンドゥドゥルグのような海上要塞は、マラーターの海軍力と工学技術の高さを示しています。
ペーシュワー時代には、プネーが文化と政治の中心地として栄え、シャニワール・ワーダーのような壮大な宮殿が建設されました。これらの建築物は、ムガル様式とラージプート様式、そして地域的なデカン様式が融合した独特のスタイルを持っています。

シヴァージーは、「ヒンダヴィー・スワラージヤ」（ヒンドゥーの自治）を掲げましたが、彼の統治は宗教的寛容性を特徴としていました。 彼は、すべての臣民に正義を保証し、多様な社会を支援しました。 彼は、ゴアのサプタコテシュワール寺院など、いくつかのヒンドゥー寺院を再建しましたが、これはムガル帝国の支配に対するヒンドゥーの自由のための戦いの象徴として捉えられることがあります。

マラーターは、ゲリラ戦術を完成させ、それをムガル帝国に対して効果的に使用したことで知られています。 この戦術は、地の利を活かし、迅速かつ奇襲的な攻撃を行うもので、数で勝る敵を打ち破るのに役立ちました。
また、シヴァージーによって創設された海軍は、インドの海事史において特筆すべき業績です。 彼は、沿岸防衛と海上貿易の保護のために、組織的な海軍力を持つことの重要性を認識した最初のインドの支配者の一人でした。 この海軍の伝統は、後のインド海軍の精神的な基盤の一部となっています。

マラーター王国は、ムガル帝国の支配に終止符を打ち、インド亜大陸の政治地図を塗り替える上で決定的な役割を果たしました。 彼らは、ムガル帝国後の権力の空白を埋める最も重要な勢力でした。 18世紀には、マラーターは事実上デリーの政治を支配し、ムガル皇帝は彼らの保護下にある名目上の存在となりました。
インドの独立運動の時代には、マラーター王国、特にシヴァージーは、国民的英雄として再評価されました。 彼は、外国の支配に対する抵抗と、ヒンドゥー・ナショナリズムの象徴として位置づけられました。