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哲学者列伝-プラトン
著作名: サリー
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◯人物
 古代ギリシアでソクラテスに学び、彼の誠実な刑死を目の当たりにすることで、アテネの政治に失望し哲学者となる。諸国を遍歴しながら対話篇を著し、アテネに学園アカデメイアを創設する。対話篇は30以上が残されており、師であるソクラテスが登場人物と問答しながら真理を追求する、というのが主要な形式である。対話篇はソクラテスの記録であると同時にプラトン自身の思想を反映しており、両者の思想を判然と区別するのは難しい。

◯主著
『ソクラテスの弁明』『メノン』『パイドン』『饗宴』『国家』『パイドロス』『法律』など
「ちょうど梯子の階段を昇るようにし、一つの美しき肉体から二つのへ、二つのからあらゆる美しき肉体へ、美しき肉体から美しき職業活動へ、次には美しき職業活動から美しき学問へと進み、さらにそれらの学問から出発してついにはかの美そのものの学問に他ならぬ学問に到達して、結局美の本質を認識するまでになることを意味する。生がそこまで到達してこそ、親愛なソクラテスよ、美そのものを観るに至ってこそ、人生は生甲斐があるのです。」(『饗宴』)

◯思想
 人間が何かを知るということは、どういうことだろうか。プラトンによれば、それは魂がかつて見たイデア想起する(思い出す)ことに他ならない。魂はかつてイデア界に住み、イデアを知っていたが、この世に誕生し肉体という「魂の牢獄」に閉じ込められることで、イデアを忘れてしまう。人間は感覚や経験を通してイデアの記憶を想起することによって、事物の本性を知ることができるのである。
 イデアとは、事物の本性・本質であり、現実の世界である現象界に存在する事物とは区別される。例えば、三角形をどれほど正確に描こうとも、厳密には線が曲がっていたり角が丸くなっていたりするのであって、それは真の三角形とはいえない。では何故我々は、これは正確な三角形では無いと知っているのだろうか。言い換えれば、何故我々は真の三角形(同一直線上にない3点と、それらを結ぶ3つの線分からなる多角形)を知っているのだろうか。このような、現実には存在しないような概念的な実在をイデアと呼ぶ。この場合は、現実の三角形は三角形のイデア・三角形そのものに映し出された影・不完全な模像のようなものであり、その限りにおいて我々は現実の三角形を三角形であると判断できるのである。このようなイデアの世界は現実の現象界とは区別され、イデア界・英知界と呼ばれる。
 イデアを説明する比喩として有名なものは、プラトン自身が『国家』の中で用いた洞窟の比喩がある。人間は生まれた時から暗い洞窟に閉じ込められており、入口を背にして鎖で縛り付けられている。彼らは洞窟に差し込む太陽の光で映し出された影(現象界)を実在であると思い込んでいるが、真の実在は洞窟の外の世界(イデア界)なのである。鎖を理性の力によって解き放ち、洞窟の外に出ることによって、真の実在を観ることが出来るのである。この太陽にあたるものは善のイデアと呼ばれ、個々のイデアの頂点に位置し、全てのイデアイデアたらしめている究極のイデアである。このようにして洞窟の外に出ようとする原動力、すなわち理性を働かせて真の実在を捉えようとする力はエロースと呼ばれ、魂はこのエロースによって美しいもの・善なるものを欲求する。
 プラトンによればこの魂は三つの機能ないし部分に分けられる。すなわち、魂の指導的部分である理性理性を指導者として意欲的に活動する意志(気概)、本能的で盲目的な欲望である。この魂の三分説は、『パイドロス』で二頭立ての馬車を魂の比喩として説明されている。すなわち、二頭を操る馭者が理性であり、理性意志(気概)の白い馬を励ましながら、他方欲望の黒い馬は叱りつけながら全体としての調和を保つのである。
 魂の三分説を前提としながら、プラトンは人間の魂が実現すべき徳を説明する。魂の理性的部分善のイデアを認識する知恵意志(気概)的部分理性に従って活動する勇気欲望的部分は節度を持って自身のあり方を制御する節制を、魂の各部分に対応して三つの徳を実現する。そして、これら三つの徳が理性を中心に成立し、魂全体としての調和がとれた状態に至ると、そこには正義の徳が実現されているのである。この知恵・勇気・節制・正義をまとめて四元徳と呼ぶ。
 この魂と徳の対応関係は、そのままプラトンの国家像にも応用される。『国家』では国家を統治者階級、防衛者階級、生産者階級に分け、それぞれの階級は魂の理性的部分、意志(気概)的部分、欲望的部分に対応している。そして、各階級が知恵・勇気・節制の徳をそなえる時、国家は全体として秩序付けられ、調和のとれた正義の徳を実現するのである。このために統治者は哲学を学び、理性をいかんなく発揮して善のイデアを認識しなければならず、このような理想的な統治状態は哲人政治・哲人王政治と呼ばれる。プラトンはこのことを、「哲学者が支配者となるか、支配者が哲学者とならない限り、国家にとっても人類にとっても幸福はない」と言い表している。

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