伊勢物語『渚の院』
ここでは伊勢物語の『渚の院』(昔、惟喬親王と申す親王おはしましけり〜)の内容とポイントを記しています。
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伊勢物語『渚の院』の現代語訳と文法解説
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伊勢物語『渚の院』の品詞分解
ポイント・要点
・惟喬親王、馬頭(在原業平とされる)そして紀有常は当時権力者であった藤原氏の前にむくわれない時代を過ごしており、主従関係を超えた絆でむすばれていた。
・馬頭と紀有常が詠む和歌からは、惟喬親王を慕う思いを感じ取ることができる。
内容
惟喬親王は毎年桜の時期に、馬頭を連れて水無瀬の御殿を訪れています。一行は狩りはせず、お酒を飲みながら和歌に熱中しており、帰るころには日が暮れてしまいました。
帰る途中、お供の者が酒をもってやってきたので、酒を飲むのによい場所を求め歩き、天の川という場所にたどりつきました。そこで馬頭が惟喬親王にお酒をすすめたところ、惟喬親王が「交野で狩りをおこなって、天の川のほとりに行き着いたことを題にして、歌を詠んで杯にそそぎなさい」というので馬頭は
「日中狩りをして日暮れになったので、(今夜は)織姫に宿を借りることとしましょう。天の川の河原に私はきたのだなあ。」
と詠みます。これに紀有常が返歌します。
「織姫は一年に一度おいでになる人を待っているのですから、その方以外に宿を貸す相手はいないだろうと思います。 」
なにやらギスギスした感じがしますが、惟喬親王、馬頭(在原業平とされる)そして紀有常は当時権力者であった藤原氏の前にむくわれない時代を過ごしており、主従関係を超えた絆でむすばれていたことを考えると、心の通い合った楽しげな雰囲気を感じることができます。
一行は御殿に戻っても宴を続けます。さすがに酔っ払って寝床に入ろうとする惟喬親王を、ちょうど隠れようとしていた月になぞらえて「お休みになるのはまだ早いですよ」と引き止めようとする歌を馬頭が詠みました。これに紀有常も同調して歌を詠みます。
いっそのこと一様に、どの峰も平らになってほしいものです。山の端がなければ、月も山の端に入らないだろうに。
主人が寝床に入るといえば引き止めずに休ませようとするのが従者なのでしょうが、ここで馬頭と紀有常は「寝ないでくださいよー」と引き止めています。このことからも馬頭と紀有常の、惟喬親王を慕う思いを感じ取ることができます。