現代語訳(口語訳)
甘蠅は、はるか昔の弓の名人でした。弓を引けば獣はひれ伏し、鳥は(空から)落ちてきました。
飛衛は甘蠅に弓を学び、その巧みさは師(甘蠅のこと)を凌いでいました。
紀昌は、弓を飛衛に学ぼうとしました。飛衛が言いました。
「お前はまず瞬きをしないことを学んで、それから弓のこと(弓を学びたいということ)を言いなさい。」と。
紀昌は家に帰って、妻の機織り機の下に横になって、目で牽挺の動きをおいました
二年後には、錐(きり)の先端を目尻に向けても(錐をさかさまに持って、その先端を目尻に向けても)瞬きをしなくなりました。そしてそのことを飛衛に告げました。
飛衛は言いました。
「まだまだだ。視ることを学べば、(弓について教わることを)許可する。小さい物が大きい物のように見えるように、微小なものが顕著にはっきりと見えるようになったら、私に告げなさい。」と。
紀昌はヤクの尾の毛を使って虱(シラミ)を窓につるして、これを眺めました。
10日ぐらいの間で次第に大きく見えるようになりました。
三年後には、(シラミが)車輪のように(大きく見えるように)なりました。そして他の物を見たところ、すべてが丘や山のように(大きく)見えました。
そこで嚥の鹿角で作られた弓と北方のよもぎの茎で作った矢柄で、これ(シラミ)を射てみたところ、シラミの心臓を貫き、しかもシラミをつるしていた糸は切れていませんでした。
単語・文法解説
彀弓 | 弓を十分に引くこと |
過 | 凌いでいる、超越している |
牽挺 | 機織り機の足で操作する部分 |
雖錐末倒皆而不瞬 | 「雖A」で「Aといへども」と読み、「例えAをしても」と訳す。「皆」は「目尻」を意味する |
氂 | ヤクの尾の毛 |
旬日 | 10日ぐらい |
燕角之弧朔蓬之簳 | 「嚥」は春秋戦国時代の国名、「朔蓬」は「北方」を意味する。 |