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源氏物語『薄雲・母子の別れ・明石の君の苦悩』(この雪少しとけて〜)の現代語訳と解説 |
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著作名:
走るメロス
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このテキストでは、源氏物語『薄雲』の章の一節「この雪少しとけて渡り給へり〜」から始まる部分のわかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては『母子の別れ』、『母子の離別』、『明石の君の苦悩』などと題するものもあるようです。
※前回のテキスト:「雪、霰がちに〜」の現代語訳と解説
源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた紫式部が作者とするのが通説です。
この雪少しとけて渡り給へり。例は待ち聞こゆるに、さならむとおぼゆることにより、胸うちつぶれて、人やりならずおぼゆ。
「わが心にこそあらめ、いなび聞こえむを強ひてやは、あぢきな。」
とおぼゆれど、軽々しきやうなりと、せめて思ひ返す。いとうつくしげにて、前に居給へるを見給ふに、おろかには思ひがたかりける人の宿世かなと思ほす。
この春より生ふす御髪、尼削ぎのほどにてゆらゆらとめでたく、つらつき、まみの薫れるほどなど言へばさらなり。よそのものに思ひやらむほどの心の闇、推し量り給ふに、いと心苦しければ、うち返しのたまひ明かす。
「何か、かく口惜しき身のほどならずだにもてなし給はば。」
と聞こゆるものから、念じあへずうち泣く気配、あはれなり。
姫君は、何心もなく、御車に乗らむことを急ぎ給ふ。寄せたる所に、母君自ら抱きて出で給へり。片言の、声はいとうつくしうて、袖をとらへて、
「乗り給へ。」
と引くもいみじうおぼえて、
末遠き二葉の松に引き別れいつか木高きかげを見るべき
えも言ひやらず、いみじう泣けば、さりや、あな苦しと思して、
「生ひそめし根も深ければ武隈の松に小松の千代をならべむ
のどかにを。」
のどかにを。」
と、慰め給ふ。さることとは思ひ静むれど、えなむ堪へざりける。乳母の少将とて、あてやかなる人ばかり、御佩刀、天児やうの物取りて乗る。人だまひ(副車)によろしき若人、童女など乗せて、御送りに参らす。道すがら、とまりつる人の心苦しさを、いかに、罪や得らむと思す。
※つづく:「暗うおはし着きて〜」の現代語訳と解説
この雪が少しとけてから、(光源氏が明石の君の住むところに)いらっしゃいました。いつもであればお待ち申し上げているのですが、そのよう(今日、光源氏がいらっしゃったのは姫君を迎えにきたの)であろうと思われるために、胸がつまって、人のせいではなく自分が決めたことだからと思うのです。
自分の心次第でしょう、(姫君を渡すのを)お断り申し上げたならば無理に連れて行かれるでしょうか、いやしないでしょう、つまらないことを。
と思うのですが、(いまさらお断りするのは)軽率なことだと、無理に思い返します。(姫君が)いかにもかわいい様子で前にいらっしゃるのを(光源氏が)御覧になると、いい加減に思うことはできない人(明石の君)との宿命かなとお思いになります。この春から伸ばしている(姫君の)御髪が、尼削ぎぐらいの長さでゆらゆらとして見事で、顔つき、目もとがつややかに美しく見える様子などは言うまでもありません。(この姫君を)他の人のものとして遠くから思うときの(明石の君の)心の迷いを、(光源氏は)ご想像なさると、とても気の毒なので、繰り返し(明石の君に)ご説明し夜を明かします。
いやどうして、このように(私のように)残念な身分ではないようにせめて(姫君を)世話をして頂けるならば。
とは申し上げますが、(悲しさを)我慢できずに涙する様子は、気の毒です。
姫君は、無邪気に、御車に乗ることをお急ぎになります。(車を)寄せている所に、母君(明石の君)自らが抱いて出ていらっしゃいました。(姫君の)片言の、声はとてもかわいらしく、(明石の君の)袖をつかんで
「(一緒に)お乗り下さい。」
と引くのを(明石の君は)たいそう悲しく思えて
将来のある二葉の松(のように幼い姫君)にお別れをして、いつになれば高くなった松の木(立派に成長した姫君)を見ることができるのでしょうか。
(明石の君は)どうしても最後まで言いきることができず、たいそう泣くので、(光源氏は)全くだ、つらいとお思いになって、
「(姫君が)生まれてきた宿縁も深いのですから、武隈の二本の松(明石の君と光源氏)の間に小松の千代(姫君)を並べ(て暮らすことができ)ましょう。
※武隈の松を明石の君と捉えて、「あなたと姫君が並んで暮らすことができましょう」という訳し方もある
落ち着いて(待っていなさい。)」
※武隈の松を明石の君と捉えて、「あなたと姫君が並んで暮らすことができましょう」という訳し方もある
落ち着いて(待っていなさい。)」
と慰めなさいます。(明石の君は)そのとおりだと気を静めようとしますが、どうしても絶えることができませんでした。乳母の少将といった、上品な女房ばかりが、御佩刀や天児のようなものを持って(車に)乗ります。お供の車にはふさわしい若い女房、女童などを乗せて、お見送りに参上させます。(光源氏は)道中、後に残った人(明石の君)のつらさを(思い)、(私は)どんなにか、罪を作っているのだろうかとお思いになります。
※つづく:「暗うおはし着きて〜」の現代語訳と解説
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