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平家物語『木曽の最期(今井四郎只一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り~)』現代語訳と解説
著作名: 走るメロス
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平家物語『木曽の最期・後編』の原文・わかりやすい現代語訳と解説

このテキストでは、平家物語の一節「木曾最期」の「今井四郎只一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り~」から始まる部分の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては「木曾最期/木曽最期」などと題するものもあります。





※前回のテキスト:「今井四郎、木曽殿、主従二騎になってのたまひけるは~」の現代語訳

平家物語とは

祇園精舎の鐘の声〜」で始まる一節で広く知られている平家物語は、鎌倉時代に成立したとされる軍記物語です。平家の盛者必衰、武士の台頭などが描かれています。


原文

今井四郎一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り、鐙踏ん張り立ち上がり、大音声あげて名乗りけるは

日頃にも聞きつらん、今は目にも見給へ。木曽殿の御乳母子、今井四郎兼平、生年三十三にまかりなる。さる者ありとは鎌倉殿までも知ろし召されたるらんぞ。兼平討つて見参に入れよ。」


とて、射残したる八筋の矢を、差し詰め引き詰め散々に射る。死生は知らず、やにはに敵八騎射落とす。その後、打ち物抜いてあれに馳せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて回るに、面を合はする者ぞなき。分捕りあまたしたりけり。







ただ、射取れや。」


とて、中に取りこめ、雨の降るやうに射けれども、鎧よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。



木曽殿は只一騎、粟津の松原へ駆け給ふが、正月二十一日入相ばかりのことなるに、薄氷張つたりけり、深田ありとも知らずして、馬をざつと打ち入れたれば、馬の頭も見えざりけり。あふれどもあふれども、打てども打てども働かず。今井が行方の覚束なさに振り仰ぎ給へる内甲(かぶと)を、三浦の石田次郎為久、追つ掛つて、よつ引いて、ひやうふつと射る。痛手なれば、真っ向を馬の頭に当てて俯し給へる処に、石田が郎等二人落ち合うて、遂に木曽殿の首をば取つてんげり







太刀の先に貫き、高く差し上げ、大音声を挙げ

「この日頃、日本国に聞こえさせ給つる木曽殿を、三浦の石田次郎為久が討ち奉りたるぞや。」


と名乗りければ、今井四郎、軍しけるがこれを聞き、

「今は誰を庇はんとてか軍をもすべき。これを見給へ東国の殿原。日本一の剛の者の自害する手本。」


とて、太刀の先を口に含み、馬より逆さまに飛び落ち、貫かつてぞ失せにける。
さてこそ粟津の軍はなかりけれ。


【「遊説」は「ゆうぜつ?」正しい読み方と意味を解説】





現代語訳

今井四郎はただ一騎で、五十騎ほどの(相手軍勢の)中に駆け入り、鎧を踏ん張って立ち上がり、大声をあげて名乗ったことには、

「普段は(私のことを)噂でも聞いて知っているだろう、(そしてその私を)今は御覧あれ。木曽殿の乳母の子、今井四郎兼平、年は三十三になる。このような者がいることは鎌倉殿までもご存知であろう。兼平を討ち取って(頼朝に)お目にかけよ。」


と言って、残した八本の矢を、残した八本の矢を、次から次へと弓につがえて激しく射る。





(矢が当たった相手の)生死はわからないが、たちどころに敵八騎を射落とす。その後に、刀を抜いてあちらに馬を走らせ戦い、こちらに馬を走らせ戦い、敵を切ってまわると、顔を合わせる者がいない。(敵の命を)多く奪ったのである。(敵は)

「とにかく、(兼平を)射止めろ。」


といって、(兼平を軍勢の)中に取り囲んで、雨が降るように(矢を)射たのだが、(兼平の)鎧がよいので貫通せず、(鎧と鎧の)隙間を射ないので傷も負わない。





木曽殿はただ一騎で、粟津の松原へ馬に乗って走りなさるが、一月二十一日の日没の頃のことなので、薄い氷が張っており、深い田があるとも知らずに、馬をどっと勢いよく乗り入れたので、(沈んで)馬の頭も見えなくなった。馬の脇腹を鐙で蹴っても蹴っても、むちで打っても打っても(馬は)動かない。今井の行く先が気がかりで空を見上げられた兜の正面の内側を、三浦の石田次郎為久が、追いかけて、(弓を)十分に引き絞って、ひゅっと射る。(木曾殿は)深手でなので、兜の鉢の正面を馬の頭にあててうつむいていらっしゃるところに、石田の家来が二人来合わせて、とうとう木曽殿の首を取ってしまった。

(木曽殿の首を)刀の先に突き通して、高くあげて、大声をあげて、





「常日頃、日本国で名高くていらっしゃる木曽殿を、三浦の石田次郎為久がお討ち申し上げましたぞ。」


と名乗ったので、今井四郎は、戦をしていたがこれを聞いて、

「今となっては誰をかばうために戦をする必要があるだろうか。これをご覧あれ、東国の武士たちよ。日本一のつわものが自害する手本だ。」


と言って、刀の先を口にふくんで、馬から逆さまに飛び落ちて、(頭を)貫いて死んでしまった。こうして、粟津の戦いはなくなったのである。

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