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竹取物語『蓬莱の玉の枝』 わかりやすい現代語訳・解説 その3 |
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著作名:
走るメロス
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このテキストでは、竹取物語の一節「蓬莱の玉の枝」(翁、皇子に申すやう、~)のわかりやすい現代語訳・口語訳と解説を記しています。長いので、5回にわけて説明をしていますが、このテキストはその3回目です。
・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その1(くらもちの皇子は〜)
・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その2(かかるほどに、門をたたきて〜)
・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その3(翁、皇子に申すやう、)
・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その4(その山、見るに、さらに登るべきやうなし。~)
・竹取物語『蓬莱の玉の枝』その5(かかるほどに、男ども六人、つらねて~)
竹取物語は、平安時代初期に成立したとされる物語です。正確な成立年や作者は未詳です。
蓬莱の玉の枝を持って帰ってきた皇子は、かぐや姫の家へと向かいます。まさか持って帰ってくるとは思ってもいなかったかぐや姫は、蓬莱の玉の枝をみて、ぶすっとしてしまいます。皇子と結婚するようかぐや姫に行ったおじいさんは、2人の寝支度をしていたのですが、そのとき皇子にどのように蓬莱の玉の枝を手に入れたのかを尋ねます。
翁、皇子に申すやう、
「いかなる所にかこの木はさぶらひけむ。あやしくうるはしくめでたき物にも」
と申す。皇子、答へてのたまはく、
「一昨々年の二月の十日ごろに、難波より船に乗りて、海の中にいでて、行かむ方も知らず、おぼえしかど、思ふこと成らで世の中に生きて何かせむと思ひしかば、ただ、むなしき風にまかせて歩く。命死なばいかがはせむ、生きてあらむかぎりかく歩きて、蓬莱といふらむ山にあふやと、海に漕ぎただよひ歩きて、我が国のうちを離れて歩きまかりしに、ある時は、浪荒れつつ海の底にも入りぬべく、ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるものいで来て、殺さむとしき。来し方行く末も知らず、海にまぎれむとしき。ある時には、糧つきて、草の根を食物としき。ある時は、いはむ方なく むくつけげなる物来て、食ひかからむとしき。ある時には、海の貝を取りて命をつぐ。
旅の空に、助けたまふべき人もなき所に、いろいろの病をして、行く方そらもおぼえず。船の行くにまかせて、海に漂ひて、五百日といふ辰の時ばかりに、海のなかに、はつかに山見ゆ。船の楫をなむ迫めて見る。海の上にただよへる山、いと大きにてあり。その山のさま、高くうるはし。これや我が求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて、山のめぐりをさしめぐらして、二三日ばかり見歩くに、天人のよそほひしたる女、山の中よりいで来て、銀の金鋺を持ちて、水を汲み歩く。これを見て、船より下りて、
『この山の名を何とか申す』
と問ふ。女、答へていはく、
『これは、蓬莱の山なり』
と答ふ。これを聞くに、嬉きことかぎりなし。この女、
『かくのたまふは誰ぞ』
と問ふ。
『我が名はうかんるり』
といひて、ふと、山の中に入りぬ。
※つづく:竹取物語『蓬莱の玉の枝』(その山、見るに、さらに登るべきやうなし。〜)
おじいさんは、皇子に
「どのようなところに蓬莱の木はあったのでしょうか。神秘的で立派で素晴らしいものですね。」
と申し上げたので、皇子は次のようにお答えになりました。
おととしの2月10日ごろに、難波から船に乗って出港し、海へ進みました。どこへ行ったらよいかもわからずにいたのですが、だからと言って、自分の願いが叶わないでいては『この世に生きていても何をしようか』と思ったので、ただ無情である風にまかせて進んでいきました。『死んでしまったらどうしよう(とは思いましたが)、生きているうちはとにかく船を進めて、蓬莱という名の山に辿りつけるだろう』と思いながら、船を漕いで日本から離れていったのです。
あるときは荒波にのまれて海に沈んでしまったり、あるときには、風に流されて知らない国に漂着し、鬼のような怪物が現れて私を殺そうとしました。あるときには、行く方角も帰る方角もわからなくなり、海で遭難しようになりました。あるときには食糧がつきて、草の根を食べたこともありました。あるときには、言いようのない恐ろしい怪物がやってきて、私を食べようとしました。あるときには、海の貝を採って命をつないだり(飢えをしのいだ)もしました。
旅の空の下のことですので、誰も助けてくれる人はいませんから、いろんな病気をして、どこに行ったら良いのかもわかりません。船の進む方向にまかせて、海に漂って500日ほどたった日の辰の時刻(午前8時)ぐらいに海の向こうに、うっすらと山が見えたのです。船の楫を進めて見ていましたが、海の上にただよっている山は、とても大きいのです。その様はとても高く立派でした。『これが私たちが求めていた山に違いない』とは思うのですが、さすがに(見つけた喜びを通り越して)恐ろしく思えました。
山の周りを2、3日かけてめぐっていたところ、天界の人の格好をした女性が山から出てきました。彼女は銀のお椀を持って、水を汲んでいました。これを見た私は船から降りて
「この山は名前をなんと言うのか。」
と尋ねました。女性が答えて言うには、
「これは蓬莱の山です」
とのことでしたので、これを聞いてとても嬉しい限りでした。
「そうおっしゃるのは(あなたは)、どなたですか?」
と女性が言うので(自分の名を)答えたところ
「私は"うかんるり"と申します。」
と言って、彼女は山の中に入っていったのです。
※つづく:竹取物語『蓬莱の玉の枝』(その山、見るに、さらに登るべきやうなし。〜)
あやし | 神秘的だ |
うるはし | 立派だ |
めでたし | すばらしい・見事だ |
思ふこと | ここでは「蓬莱の玉の枝」を見つけること |
むなし | ここでは「無情である」と訳す |
我が国 | 皇子の言う「我が国」なので日本を指す |
いはむかたなし | 言いようのない |
むくつけげ | 「むくつけし」が変化したもの。恐ろしいという意味 |
辰の時 | 午前8時ぐらい |
はつかなり | うっすらと |
・竹取物語『冒頭』(今は昔、竹取の翁といふもの〜)
・竹取物語『火鼠の皮衣』(家の門に持て至りて立てり)
・竹取物語『帝の求婚』(帝、にはかに日を定めて~)
・竹取物語『かぐや姫の嘆き』(八月十五日ばかりの月に出でゐて、~)
・竹取物語『かぐや姫の昇天』(かかるほどに、宵うち過ぎて、〜)
・竹取物語『かぐや姫の昇天』(立てる人どもは~)
・竹取物語『かぐや姫の昇天』(竹取、心惑ひて~)
・竹取物語『かぐや姫の昇天』(天人の中に持たせたる箱~)
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。
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