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9_80 文章の読み解き / 文章の読み解き

沙石集『歌ゆえに命を失ふ事(天徳の御歌合のとき〜)』の現代語訳

著者名: 走るメロス
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沙石集『歌ゆえに命を失ふ事』

ここでは、沙石集の中の『歌ゆえに命を失ふ事』の現代語訳を行っています。書籍によっては『兼盛と忠見』と題するものもあるようです。

原文(本文)

天徳の御歌合のとき、兼盛、忠見、ともに 御随身にて、左右についてけり。初恋といふ題を給はりて、忠見、名歌詠み出したりと思ひて、兼盛もいかでこれほどの歌詠むべきとぞ思ひける。

恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか

さて、すでに御前にて講じて、判ぜられけるに、兼盛が歌に、

つつめどもに出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで

判者ども、名歌なりければ、判じわづらひて、天気をうかがひけるに、帝、忠見が歌をば、両三度御詠ありけり。兼盛が歌をば、多反御詠ありけるとき、天気左にありとて、兼盛勝ちにけり。


忠身、心憂くおぼえて、心ふさがりて、不食の病つきてけり。頼みなきよし聞きて、兼盛とぶらひければ、

「別の病にあらず。御歌合のとき、名歌詠み出だしておぼえ侍りしに、殿の『ものや思ふと人の問ふまで』に、あはと思ひて、あさましくおぼえしより、胸ふさがりて、かく重り侍りぬ。」

と、つひにみまかりにけり。


執心こそよしなけれども、道を執するならひ、あはれにこそ。ともに名歌にて拾遺に入りて侍るにや。

現代語訳(口語訳)

天徳の御歌合のときに、兼盛と忠見は、ともに随身として左方と右方についていました。初恋という題材を頂いて、忠見は、名歌を詠むことができたと思い、兼盛もどうしてこれほどできのよい歌を詠むことができようか、いやできないと思ったのでした。

恋をしているという私の評判が、早くも広がってしまいました。人に知られないようにと想っていいたのに。

さて、すでに天皇の御前で歌を読み上げて、判定なさっていたときに、兼盛の歌として

包み隠していたけれど、顔色に出てしまいました。私の恋心は、物思いをしているのかと人が問うほどまでに(顔色に出てしまっていることです。)

歌の優越を判定する人たちは、(どちらも)名歌でしたので優越をつけかねて、天皇のご意向を伺ったところ、帝は、(まず)忠見の歌を、二度三度お詠みになられました。(次に)兼盛の歌を、何回も繰り返しお詠みになられたときに、天皇のご意向は左方にあるということで、兼盛が勝ったのでした。

忠身は、つらく思って、ふさぎこんでしまい、食べられない病になってしまいました。病気が重く回復の期待が見込まれない旨を聞いて、兼盛がお見舞いにいったところ、(忠身は、)

「特別な病気というわけではありません。御歌合のときに、名歌を詠み出せたと思っておりましたが、あなたの、『物思いをしているのかと人が問うほどまでに』という歌に、あぁと思って、驚いたと思ったときから、胸がふさがって、このように重病になったのです。」

と言って、ついには亡くなりました。

物事に深くとらわれる心はよくないですが、(歌の)道を深く心にかける習慣は、心が動かされるものです。どちらの歌も名歌でしたので、拾遺集に収められているのでしょうか。

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佐竹昭広、前田金五郎、大野晋 編1990 『岩波古語辞典 補訂版』 岩波書店
『教科書 高等学校古典B』 第一学習社

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