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平家物語原文全集「鹿谷 2」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

鹿谷

新大納言これに恐れをもいたされず、昼は人目のしげければ、夜な夜な歩行にて、中御門烏丸の宿所より賀茂のかみの社へ七夜続けて参られけり。七夜に満ずる夜、宿所に下向して、苦しさにうちふしちっとまどろみ給へる夢に、賀茂のかみの社へ参りたるとおぼしくて、御宝殿の御戸おしひらき、ゆゆしう気高げなる御声にて、

さくら花賀茂の川風うらむなよ 散るをばえこそとどめざりけれ

新大納言、なほ恐れをもいたされず、賀茂の上の社に、ある聖をこめて、御宝殿の御うしろなる杉の洞に壇をたてて、拏吉尼(だぎに)の法を百日おこなはせられけるほどに、かの大杉に雷(いかづち)落ちかかり、雷火おびただしうもえあがって、宮中既にあやうく見えけるを、宮人(みやうど)ども多く走り集まってこれをうち消つ。さて、かの外法(げほう)おこなひける聖を追出せむとしければ、

「我当社に百日参籠の大願あり。今日は七十五日になる。全くいづまじ」


とて働かず。この由を社家より内裏(だいり)へ奏聞(そうもん)しければ、

「ただ法に任せて追出せよ」


と宣旨を下さる。その時神人(じんにん)白杖を持って、かの聖がうなじをしらげて、一条の大路より南へ追ひだしてけり。神は非礼を享け給はずと申すに、この大納言非分の大将を祈り申されければにや、かかる不思議も出で来にけり。

つづき
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・平家物語原文全集「鹿谷 2」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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