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蜻蛉日記原文全集「かくて又、心のとくる世なくなげかるるに」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

かくて又、心のとくる世なくなげかるるに

かくて又、心のとくる世なくなげかるるに、なまさかしらなどする人は

「わかき御心に、などかくては」


といふこともあれど、人はいとつれなう

「我やあしき」


など、うらもなう罪なきさまにもてないたれば、いかがはすべきなどよろづに思ふことのみしげきを、いかでつぶつぶといひ知らするものにもがなと思ひみだるるとき、心づきなき胸うちさわぎて、ものいはれずのみあり。なほ書きつづけても見せんと思ひて、

おもへただ むかしもいまも わがこころ のどけからでや はてぬべき みそめしあきは ことのはの うすきいろにや うつろふと なげきのしたに なげかれき ふゆはくもゐに わかれゆく 人ををしむと はつしぐれ くもりもあへず ふりそぼち こころぼそくは ありしかど きみにはしもの わするなと いひおきつとか ききしかば さりともとおもふ ほどもなく とみにはるけき わたりにて しらくもばかり ありしかば こころそらにて へしほどに きりもたなびき たえにけり またふるさとに かりがねの かへるつらにやと おもひつつ ふれどかひなし かくしつつ わがみむなしき せみのはの いましも人の うすからず なみだのかはの はやくより かくあさましき そこゆゑに ながるることも たえねども いかなるつみか おもからん ゆきもはなれず かくてのみ 人のうきせに ただよひて つらきこころは みづのあわの きえばきえなんと 思へども かなしきことは みちのくの つつじのをかの くまつづら くるほどをだに またでやは 宿世(すくせ)たゆべき あぶくまの あひみてだにと おもひつつ なげくなみだの ころもでに かからぬよにも ふべきみを なぞやとおもへど あふばかり かけはなれては しかすがに こひしかるべき からごろも うちきて人の うらもなく なれしこころを 思ひては うき世をされる かひもなく おもひいでなき われやせん と思ひかくおもひ おもふまに やまとつもれる しきたへの まくらのちりも ひとりねの かずにしとらば つきぬべし なにかたえぬる たびなりと おもふものから かぜふきて 一日もみえし あまぐもは かへりしときの なぐさめに いまこんといひし ことのはを さもやとまつの みどりごの たえずまねぶも きくごとに 人わらへなる なみだのみ わがみをうみと たたふとも みるめもよせぬ みつのうらは かひもあらじと しりながら いのちあらばと たのめこし ことばかりこそ しらなみの たちもよりこば とはまほしけれ


と書きつけて、二階の中におきたり。




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・蜻蛉日記原文全集「かくて又、心のとくる世なくなげかるるに」

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The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店

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