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蜻蛉日記原文全集「この時のところに」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

この時のところに

この時のところに、子うむべきほどになりて、よき方えらびて、ひとつ車にはひのりて、一京ひびきつづきていと聞きにくきまでののしりて、この門のまへよりしも渡るものか。われはわれにもあらず、物だにいはねば、見る人、使ふよりはじめて、

「いと胸いたきわざかな。世に道しもこそはあれ」


など、いひののしるを聞くに、ただ死ぬるものにもがなと思へど、心にしかなはねば、今よりのちたけくはあらずとも、たえて見えずだにあらん、いみじう心憂し、と思ひてある に、三四日ばかりありて文あり。あさましうつべたましと思ふ思ふ見れば、

「このごろここにわづらはるることありて、えまゐらぬを、きのふなん平らかにものせらるめる。けがらひもやいむとてなん」


とぞある。あさましうめづらかなることかぎりなし。ただ、

「給はりぬ」


とてやりつ。使ひに人とひければ、

「をとこ君になん」


といふを聞くに、いと胸ふたがる。

三四日ばかりありてみづからいともつれなく見えたり。なにか来(き)たるとて見入れねば、いとはしたなくて帰ること、たびだびになりぬ。 




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・蜻蛉日記原文全集「この時のところに」

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The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店

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