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更級日記 原文全集「さるべきやうありて秋ごろ和泉にくだるに」

著者名: 古典愛好家
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更級日記

さるべきやうありて、秋ごろ、和泉にくだるに

さるべきやうありて、秋頃和泉に下るに、淀といふよりして、道のほどのをかしうあはれなること、いひつくすべうもあらず。高浜といふ所にとまりたる夜、いと暗きに、夜いたうふけて、舟の楫のをときこゆ。問ふなれば、遊女(あそび)のきたるなりけり。人々興じて、舟にさしつけさせたり。遠き火のひかりに、単衣の袖ながやかに、扇さしかくして、歌うたひたる、いとあはれに見ゆ。


またの日、山の端に日のかかるほど、住吉の浦をすぐ。空もひとつに霧りわれたる、松の梢も、海のおもても、浪のよせくるなぎさのほども、絵にかきても及ぶべき方なう、おもしろし。

  いかにいひ何にたとへてかたらまし 秋の夕の住吉の浦

と見つつ、綱手をひきすぐるほど、かへりみのみせられて、あかずおぼゆ。


冬になりて、のぼるに、大津といふ浦に舟ののりたるに、その夜、雨風、岩もうごくばかりふりふぶきて、神さへなりてとどろくに、浪のたちくるをとなひ、風のふきまどひたるさま、おそろしげなること、命かぎりつと思ひまどはる。丘の上に舟をひきあげて、夜を明かす。雨は止みたれど、風なほふきて、舟出ださず。行方もなき丘のうえに、五六日とすぐす。からうじて風いささか止みたるほど、舟の簾(すだれ)まきあげて見わたせば、夕潮ただ満ちに満ちくるさま、とりもあへず、入江のたづの声おしまぬも、をかしく見ゆ。
国の人々集まりきて、

「その夜、この浦を出でさせ給ひて、石津につかせ給へらましかば、やがてこの御舟なごりなくなりなまし」


などいふ、心細うきこゆ。

  荒るる海に風より先に舟出して 石津の浪ときえなましかば


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・更級日記 原文全集「さるべきやうありて秋ごろ和泉にくだるに」

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長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
森山京 2001年 「21世紀によむ日本の古典4 土佐日記・更級日記」ポプラ社

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