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枕草子 原文全集「万づのことよりも」

著者名: 古典愛好家
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万づのことよりも

万(よろ)づのことよりも、わびしげなる車に、装束わるくて物見る人、いともどかし。説経などはいとよし。罪うしなふことなれば。それだになほ、あながちなるさまにては見ぐるしきに、まして祭などは見でありぬべし。下簾(したすだれ)なくて、白き単衣(ひとへ)の袖などをうちたれてあめりかし。ただその日の料と思ひて、車の簾もしたてて、いとくちをしうはあらじと出でたるに、まさる車などを見つけては、なにしにとおぼゆるものを、まいて、いかばかりなる心にてさてみるらむ。
 

よき所に立てむといそがせば、とく出でて待つほど、ゐ入り、立ちあがりなど、暑く苦しきに困ずるほどに、斎院の垣下にまゐりける殿上人、所の衆、弁、少納言など、七つ八つとひきつづけて、院の方より走らせてくるこそ、ことなりにけりとおどろかれて、うれしけれ。
 

物見の所のまへに立てて見るも、いとをかし。殿上人ものいひにおこせなどし、所の御前どもに水飯くはすとて、階(はし)のもとに馬ひきよするに、おぼえある人の子どもなどは、雑色(ざうしき)など下りて馬の口とりなどしてをかし。さらぬものの、見もいれられぬなどぞ、いとおしげなる。
 

御輿のわたらせ給へば、轅(ながへ)ども、あるかぎりうちおろして、過ぎさせ給ひぬれば、まどひあぐるもをかし。その前に立つる車はいみじう制するを、

「などて立つまじき」


とてしひて立つれば、いひわづらひて、消息などするこそをかしけれ。所もなく立ちかさなりたるに、よきところの御車、人だまひ、ひきつづきておほくくるを、いづこだに立たむとすらむと見るほどに、御前どもただ下りに下りて、立てる車どもをただのけにのけさせて、人だまひまで立てつづけさせつるこそ、いとめでたけれ。おひさけさせつる車どもの、牛かけて所あるかたにゆるがしゆくこそ、いとわびしげなれ。きらきらしくよきなどをば、いとさしもおしひしがず。
 

いときよげなれど、またひなび、あやしき下衆など、絶えずよびよせ、いだし据ゑなどしたるもあるぞかし。


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・枕草子 原文全集「万づのことよりも」

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萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店

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