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枕草子 原文全集「とくゆかしき物/心もとなき物」

著者名: 古典愛好家
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とくゆかしき物

とくゆかしき物。

巻染(まきぞめ)、むら濃(ご)、くくり物など染めたる。

人の子うみたるに、男女、とく聞かまほし。

よき人さらなり、ゑせもの、下衆のきはだになほゆかし。

除目(じもく)のつとめて。

かならず、しる人のさるべき、なきおりも、なほきかまほし。


心もとなき物

心もとなき物。人のもとにとみの物縫ひにやりて、待つほど。物見にいそぎいでて、いまいまとくるしうゐ入りて、あなたをまもらへたる心地。子うむべき人の、そのほど過ぐるまでさるけしきもなき。遠き所より思ふ人の文をえて、かたく封じたる続飯(そくひ)などあくるほど、いと心もとなし。物見におそくいでて、ことなりにけり、しろきしもとなどみつけたるに、近くやり寄するほど、わびしう下りてもいぬべき心地こそすれ。

知られじと思ふ人のあるに、前なる人に教へて物いはせたる。いつしかと待ちいでたるちごの、五十日、百日などのほどになりにたる。ゆくすゑ、いと心もとなし。とみのもの縫ふに、なまくらうて、針に糸すぐる。されど、それはさるものにて、ありぬべき所をとらへて、人にすげさするに、それもいそげばにやあらむ、とみにもさし入れぬを、

「いで、ただ、なすげそ」


といふを、さすがになどてかと思ひ顔に、えさらぬ、にくささへそひたり。


なにごとにもあれ、いそぎてものへいくべきおりに、まづ我さるべき所へいくとて、

「ただいまおこせむ」


とて出でぬる車待つほどこそ、いと心もとなけれ。大路いきけるを、さななりとよろこびたれば、外(ほか)ざまにいぬる、いとくちをし。まいて、物見にいでむとてあるに、

「ことはなりぬらむ」


と、人のいひたるを聞くこそわびしけれ。


子うみたる後のことのひさしき。物見、寺詣などに、もろともにあるべき人を乗せにいきたるに、車をさしよせて、とみにも乗らでまたするも、いと心もとなく、うちすててもいぬべき心地ぞする。また、とみにて炒炭(いりずみ)おこすも、いとひさし。

人の歌のかへし、とくすべきを、えよみ得ぬほども心もとなし。懸想人などは、さしもいそぐまじけれど、おのづから、またさるべきをりもあり。まして、女も、ただにいひかはすことは、ときこそはと思ふほどに、あいなくひがごともあるぞかし。


心地のあしく、もののおそろしきおり、夜のあくるほど、いと心もとなし。



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・枕草子 原文全集「とくゆかしき物/心もとなき物」

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萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 下」 新潮社
松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店

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