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枕草子 原文全集「あはれなるもの」

著者名: 古典愛好家
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あはれなるもの

あはれなるもの。孝ある人の子。よきをとこの若きが、御嶽精進したる。たてへだてゐて、うちおこなひたる暁の額(ぬか)、いみじうあはれなり。むつまじき人などの、めさまして聞くらむ、思ひやる。まうづる程のありさま、いかならんなど、つつしみをぢたるに、たひらかにまうで着きたるこそいとめでたけれ。烏帽子のさまなどぞ、すこし人わろき。なほいみじき人と聞こゆれど、こよなくやつれてこそまうづと知りたれ。

右衛門佐宣孝(うえもんのすけのぶたか)といひたる人は、

「あぢきなき事なり。ただきよき衣を着てまうでんに、なでう事かあらむ。必ずよもあやしうてまうでよと、御嶽さらにのたまはじ」


とて、三月つごもりに、紫のいと濃き指貫、白き襖(あを)、山吹のいみじうおどろおどろしきなど着て、隆光が、主殿助(とのものすけ)なるには、青色の襖、紅の衣、すりもどろかしたる水干といふ袴を着せて、うちつづきまうでたりけるを、かへる人も今まうづるも、めづらしう、あやしき事に、すべて、むかしよりこの山に、かかる姿の人見えざりつと、あさましがりしを、四月一日にかへりて、六月十日の程に、筑前守の辞せしに、なりたりしこそ、げにいひにけるにたがはずも、ときこえしか。これはあはれなる事にはあらねど、御嶽のついでなり。

男も女も、若くきよげなるが、いとくろき衣着たるこそあはれなれ。九月つごもり、十月一日の程に、ただあるかなきかに聞きつけたるきりぎりすの声。庭鳥の、子いだきてふしたる。秋ふかき庭の浅茅に、露の、色々の玉のやうにておきたる。夕暮暁に、河竹の風に吹かれたる、めさまして聞きたる。また、夜などもすべて。山里の雪。思かはしたる若き人の中の、せくかたありて、心にもまかせぬ。
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・枕草子 原文全集「あはれなるもの」

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松尾聰,永井和子 1989年「完訳 日本の古典 枕草子」小学館
萩谷朴 1977年「新潮日本古典集成 枕草子 上」 新潮社
渡辺実 1991年「新日本古典文学大系 枕草子・方丈記」岩波書店

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