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源氏物語 桐壺 その11 靫負命婦の弔問4
著作名: 春樹
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【源氏物語 原文】

泣く泣く、「夜いたう更けぬれば、今宵過ぐさず、御返り奏せむ」と急ぎ参る。

月は入り方の、空清う澄みわたれるに、風いと涼しくなりて、草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも、いと立ち離れにくき草のもとなり。
 
「鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな」えも乗りやらず。
 
「いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人かごとも聞こえつべくなむ」と言はせたまふ。

をかしき御贈り物などあるべき折にもあらねば、ただかの御形見にとて、かかる用もやと残したまへりける御装束一領、御髪上げの調度めく物添へたまふ。

若き人びと、悲しきことはさらにも言はず、内裏わたりを朝夕にならひて、いとさうざうしく、主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば、とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど、「かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも、いと人聞き憂かるべし、また、見たてまつらでしばしもあらむは、いとうしろめたう」思ひきこえたまひて、すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり。

若き人びと、悲しきことはさらにも言はず、内裏わたりを朝夕にならひて、いとさうざうしく、主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば、とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど、「かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも、いと人聞き憂かるべし、また、見たてまつらでしばしもあらむは、いとうしろめたう」思ひきこえたまひて、すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり。
【現代語訳】

北の方と命婦、どちらも話すことにきりがなくなってきたので、命婦は、「もう非常に遅い時間ですね。今夜のうちに帝にはご報告をしたいので」と言って帰る支度を始めました。

涼しい風が、月夜できれいに澄みきった空に吹いていて、草むらの虫は人の悲しみを促すような声をあげているので、それらが何とも帰りにくい風情を醸し出しています。

「鈴虫が声の限りをつくして鳴いても、秋の夜長も更けないほど涙がでています。」

北の方は続けます。
「『鳴き続ける虫の音に、さらに涙をもたらすのはあなた様でございます。』ついご訪問がかえって恨めしいと口に出してしまいそうです。」と。

意匠を凝らせた贈り物などするときではなかったので、故人の形見ということにして、唐衣と裳の一揃えに、髪上げの用具の入った箱を添えて渡しました。
 
『若い女房たちが更衣の死を悲しむのはもちろんのことでしたが、宮中での生活に慣れていたために、このような里での暮らしでは物足りなく思うことも多いようでした。帝のことを思い、若宮を連れて早く参内してはいかがですかとは促されるものの、不幸な自分が一緒に参内することは、世間に批判のネタを与えるようなものでしょうし、かといって若宮とお別れをしている苦痛にも耐え切れる自信もないのです』と北の方は思うので、結局若宮の参内は実現性に乏しいものでした。



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