manapedia
枕草子『宮に初めて参りたるころ』現代語訳・口語訳と文法解説
著作名: 走るメロス
146,074 views
マナペディア(manapedia)とは、中学校・高等学校で勉強する科目に特化した、マナビを共有し合う場です。たくさんのテキストの中からあなたにあったマナビを探したり、あなたが学習・勉強してきたマナビを形に残したりすることができます。テキストの内容に関しては、他の参考文献をご覧になり、ご自身の責任のもとご判断・ご利用頂きますようお願い致します。

枕草子『宮に初めて参りたるころ』

ここでは、枕草子の中の『宮に初めて参りたるころ』の現代語訳・口語訳とその解説をしています。

原文(本文)

に初めて参りたるころ、もののはづかしきことの数知らず、涙も落ちぬべければ、夜々参りて、三尺の御几帳のうしろに候ふに、絵など取り出でて見せさせ給ふを、手にてもえさし出づまじう、わりなし

「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」


などのたまはす。高坏に参らせたる大殿油なれば、髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、念じて見などす。いと冷たきころなれば、さし出でさせ給へる御手のはつかに 見ゆるが、いみじう にほひたる薄紅梅なるは、限りなく めでたしと、見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしましけれと、おどろかるるまでぞ、まもり参らする。


暁にはとく下りなむといそがるる。

「葛城の神もしばし。」


など仰せらるるを、いかでかは筋かひ御覧ぜられむとて、なほ臥したれば、御格子も参らず。女官ども参りて、

「これ、放たせ給へ。」


など言ふを聞きて、女房の放つを、

まな。」


と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、

「下りまほしうなりにたらむ。さらば、はや。夜さりは、とく。」


と仰せらる。


ゐざり隠るるや遅きと、上げちらしたるに、雪降りにけり。登華殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。


昼つかた、

「今日は、なほ参れ。雪に曇りてあらはにもあるまじ。」


など、たびたび召せば、この局のあるじも、

「見苦し。さのみやは篭りたらむとする。あへなきまで御前許されたるは、さおぼしめすやうこそあらめ。思ふにたがふはにくきものぞ。」


と、ただいそがしに出だし立つれば、あれにもあらぬ心地すれど参るぞ、いと苦しき。火焼屋の上に降り積みたるも、めづらしう、をかし。

現代語訳(口語訳)

(中宮定子様の)御所に初めて出仕申し上げたころ、気が引けてしまうことがたくさんあり、(緊張で)涙もこぼれ落ちてしまいそうなほどで、夜ごとに参上しては、三尺の御几帳の後ろにお控えしているのですが、(中宮様が)絵などを取り出して見せてくださるのを、(私は)手さえも差し出すことができないほど(気恥ずかしく)どうしようもない状態でいます。

「これは、ああだ、こうだ。それがよいだろうか、あれがよいだろうか。」


などと(中宮様が)おっしゃいます。高坏にお灯しして差し上げさせた火なので、(私の)髪の筋などが、かえって昼(間の時間帯)よりも際立って見えて恥ずかしいのですが、(気恥ずかしいのを)我慢して(中宮様の出した絵を)拝見したりします。とても(寒く)冷えるころなのですが、(中宮様が)差し出されるお手がかすかに見え、(その手の)美しさが映えて薄紅梅色であることが、この上なく美しいと、(まだ宮中様のことをよく)わかっていない(田舎心地の私のような)者には、このような人がこの世にいらっしゃるのだなぁと、はっとするほどで、じっとお見つめ申し上げています。


明け方には早く退出しようと気がせきます。

「(明かりを嫌う)葛城の神も、もうしばらくいなさい。」


と(中宮様は)おっしゃるのですが、(私は)なんとかして、斜めに向かい合って(私を)ご覧いただこうとして、、やはりうつぶしているので、御格子もお上げしないでいます。女官たちが参上してきて、

「この格子を、お上げください。」


などと言うのを聞いて、(他の)女房が上げようとするのを(中宮様は)

「(上げては)だめ。」


とおっしゃるので、(女房たちも)笑って帰っていきました。(中宮様が私に)あれこれお尋ねになり、お話されるうちに、だいぶ時間がたったので、

「(自分の部屋に)下がりたくなったことでしょう。それでは、早く(行きなさい)。夜にはすぐに(いらっしゃい)。」


と(中宮様が)おっしゃいます。


膝をついたまま(退出して自分の部屋に)姿を隠すやいなや、(女房たちが格子を)むやみやたらに上げたところ、(外には)雪が降っていたのでした。登華殿の御前は、立蔀が近くに立ててあって狭いです。雪はとても風情があります。


昼ごろ、

「今日は、(昼でも)やはりいらっしゃい。雪雲で空が曇っているので、(姿が)あらわになることもないでしょう。」


などと、(中宮様が)何度もお召しになるので、部屋の主の女房も、

「見るに耐えないですよ。そのように引きこもってばかりいてよいのでしょうか、いやよくないです。あっけないほど(簡単に中宮様の)御前にへお目通りが許されているということは、そのように思われることがあってのことでしょう。(中宮様の)好意にそむくのは気に食わないことですよ。」


と言って、ただ急がせて部屋から出すので、無我夢中の気持ちで参上するのは、とてもつらいものです。(雪が)火焼屋の上に降り積もっているのも、いつもと違っていて、風情があってよいものです。
次ページ:品詞分解と単語・文法解説


1ページ
前ページ
1/2
次ページ

このテキストを評価してください。
役に立った
う~ん・・・
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。