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平家物語原文全集「吾身栄花 2」
著作名: 古典愛好家
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平家物語

吾身栄花

その外御娘八人おはしき。皆とりどりに幸ひ給へり。一人は、桜町の中納言重教卿の北の方にておはすべかりしが、八歳の時、御約束ばかりにて、平治の乱以後ひきちがへられ、花山院の左大臣殿の御台盤所にならせ給ひて、君達たまたましましけり。抑も、この重教卿を桜町の中納言と申しける事は、すぐれて心数奇給へる人にて、常は吉野山を恋ひ、町に桜を植ゑ並べ、その内に屋を立てて住み給ひしかば、来(く)る年の春ごとに、見る人、桜町とぞ申しける。桜は咲いて七箇日に散るを、名残を惜しみ、天照御神に祈り申されければ、三七日まで名残ありけり。君も賢王にてましませば、神も神徳を輝かし、花も心ありければ、廿日(はつか)の齢を保ちけり。一人は、后に立たせ給ふ。皇子御誕生ありて、皇太子に立ち位につかせ給ひしかば、院号かうぶらせ給ひて、建礼門院とぞ申しける。入道相国の御娘なるうへ、天下の国母にてましましければ、とかう申すに及ばず。一人は、六条の摂政殿の北政所にならせ給ふ。高倉院御在位の御、御母代(おんばばしろ)とて准三后の宣旨をかうぶり、白河殿とておもき人にてましましけり、一人は、普賢寺殿の北の政所にならせ給ふ。一人は、冷泉大納言隆房卿の北の方、一人は、七条修理大夫信隆卿に相具し給へり。また安芸国厳島の内侍が腹に一人おはせしは、後白河の法皇へ参らせ給ひて、女御のやうでぞましましける。その外九条院の雑仕常葉が腹に一人、これは花山院殿の上臈女房にて、廊の御方とぞ申しける。

日本秋津島は、僅(わづ)かに六十六箇国、平家知行の国三十余箇国、既に半国に越えたり。その外荘園、田畑幾らといふ数を知らず。綺羅充満して、堂上花の如し。軒騎群集して、門前市をなす。楊州の金、荊州の珠、呉郡の綾、蜀江の錦
七珍万宝一つとしてかけたる事なし。歌堂舞閣の基、魚龍爵馬の翫(もてあそ)び物、おそらくは帝闕も仙洞も、これには過ぎじとぞ見えし。



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