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蜻蛉日記原文全集「ついたち、七八日のほどの昼つかた」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

ついたち、七八日のほどの昼つかた

ついたち、七八日のほどの昼つかた、

「右馬頭(むまのかみ)おはしたり」


といふ。

「あなかま、ここになしとこたへよ。ものいはむとあらんに、まだしきに便(び)なし」


などいふほどに入りて、あらはなる籬(まがき)のまへにた立ちやすらふ。例もきよげなる人の、練りぞしたる着て、なよよかなる直衣、太刀ひきはき、例のことなれど、あか色の扇すこしみだれたるをもてまさぐりて、風邪はやきほどにえひふき上げられつつ立てるさま、絵にかきたるやうなり。

「きよらの人あり」


とて、奥まりたるをんなどもなど、うちとけすがたにて出でて見るに、ときしもあれ、この風の、すだれを外へふき内へふき、まどはせば、すだれをたのみたるものども我か人かにておさへひかへさわぐまに、なにか、あやしの袖口もみな見つらんと思ふに、死ぬばかりいとほし。よべ出居(いでい)のところより、夜ふけてかへりて寝臥(ねふ)したる人をおこすほどに、かかるなりけり。からうじておきいでて、ここには人もなきよし言ふ。風のここちあわたたしさに、格子をみな、かねてよりおろしたるほどにあれば、なにごといふもよろしきなりけり。しひて簀子(すのこ)にのぼりて、

「今日よき日なり。わらふだかひ給へ。ゐそめん」


など許かたらひて、

「いとかひなきわざかな」


とうちなげきてかへりぬ。



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