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蜻蛉日記原文全集「大夫、例のところに文やる」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

大夫、例のところに文やる

大夫、例のところに文(ふみ)やる。さきざきのかへりごとども、みづからのとは見えざりければ、うらみなどして、

ゆふされのねやのつまづまながむれば てづからのみぞくももかきける

とあるを、いかがおもひけん、しろい紙にものの先にて書きたり。

くものかくいとぞあやしき風ふけば そらにみだるるものとしるしる

たちかへり、

つゆにてもいのちかけたるくものいに あらきかぜをばたれかふせがむ

「くらし」


とてかへりごとなし。又の日、昨日の白紙(しらかみ)おもひいでてにやあらん、かくいふめり。

たじまのやくぐひのあとを今日みれば ゆきのしらはましろくてはみじ

とてやりたるを、

「物へなん」


とてかへりごとなし。又の日、

「かへりにたりや、かへりごと」


と、ことばにてこひにやりたれば、

「昨日のはいとふるめかしき心ちすれば、きこえず」


といはせたり。又の日、

「一日はふるめかしとか。いとことわりなり」


とて、

ことわりやいはでなげきしとし月も ふるのやしろのかみさびにけん

とあれど、

「けふあすは物忌」


と、かへりごとなし。

あくらんとおもふ日のまだしきに、

夢ばかりみてしばかりにまどひつつ あくるぞおそきあまのとざしは

このたびもとかういひまぎらはせば、又、

さもこそはかつらぎ山になれたらめ ただひとことやかぎりなりける

誰かならはせる」


となん。

わかき人こそかやういふめれ、我ははるのよのつね、秋のつれづれ、いとあはれふかきながめをするよりは、のこらん人の思ひいでにもみよとて、絵をぞかく。さるうちにも今やけふやとまたるる命、やうやう月たちて日もゆけば、さればよ、よも死なじものを、さいはひある人こそ命はつづむれと思ふに、うべもなく九月もたちぬ。

廿七八日のほどに、土をかすとてほかなる夜しも、めづらしきことありけるを、人つげにきたるも、なにごともおぼえねば、うとくてやみぬ。




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