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蜻蛉日記原文全集「十八日に、清水へまうづる人に、又しのびてまじりたり」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

十八日に、清水へまうづる人に、又しのびてまじりたり

十八日に、清水へまうづる人に、又しのびてまじりたり。初夜(そや)はててまかづれば、時は子(ね)許(ばかり)なり。もろともなる人のところにかへりて、ものなどものするほどに、あるものども

「この乾のかたに火なん見ゆるを、いでてみよ」


などいふなれば、

「もろこしぞ」


などいふなり。ここちには、なほくるしきわたりなどおもふほどに、人々

「かうの殿なりけり」


といふに、いとあさましういみじ。わが家も築土(ついひぢ)許へだてたれば、さわがしう、わかき人をもまどはしやしつらん、いかでわたらんとまどふにしも、車のすだれはかけられけるものかは。からうじてのりて来(こ)しほどに、みなはてにけり。

わが方はのこり、あなたの人もこなたにつどひたり。ここには大夫ありければ、いかに、土にや走らすらんとおもひつる人も車にのせ、門つようなどものしたりければ、らうがはしきこともなかりけり。あはれ、をのことてようおこなひたりけるよと、見きくもかなし。わたりたる人々は、ただ

「いのちのみわづかなり」


となげくまに、火しめりはててしばしあれど、とふべき人はおとづれもせず、さしもあるまじきところどころよりもとひつくして、このわたりならんやのうたがひにて、いそぎみえし世よもありしものを、ましてもなりはてにけるあさましさかな、

「さなん」


とかたるべき人は、さすがに雑色や侍やとききおよびけるかぎりはかたりつとききつるを、あさましあさましとおもふほどにぞ、門たたく。人みて

「おはします」


といふにぞ、すこし心おちゐておぼゆる。さて

「ここにありつるをのこどもの来(き)て告げつるになん、おどろきつる。あさましう来(こ)ざりけるがいとほしきこと」


などあるほどに、と許になりぬれば、とりもなきぬときくきく寝にければ、ことしも心ちよげならんやうに朝寝(あさい)になりにけり。今もとふ人あまたののしれば、せてふにてもしたり。

「さわがしうぞなりまさらん」


とていそがれぬ。

しばしありてをとこの着るべきものどもなど、かずあまたあり。

「とりあへたるにしたがひてなん。かみにまづ」


とぞありける。

「かくあつまりたる人にものせよ」


とていそぎけるは、いとにはかに檜皮(ひはだ)のこき色にてしたり。いとあやしければ見ざりき。もの問ひなどすれば、

「三人許やまひごと、口舌(くぜち)」


などいひたり。




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