manapedia
蜻蛉日記原文全集「人はめでたくつくりかかやかしつるところに」
著作名: 古典愛好家
1,707 views
マナペディア(manapedia)とは、中学校・高等学校で勉強する科目に特化した、マナビを共有し合う場です。たくさんのテキストの中からあなたにあったマナビを探したり、あなたが学習・勉強してきたマナビを形に残したりすることができます。テキストの内容に関しては、他の参考文献をご覧になり、ご自身の責任のもとご判断・ご利用頂きますようお願い致します。

蜻蛉日記

人はめでたくつくりかかやかしつるところに

人は、めでたくつくりかかやかしつるところに、あすなむ、こよひなむ、とののしるなれど、我は思ひしもしるく、かくてもあれかしになりにたるなめり。されば、げにこりにしかばなど、思ひのべてあるほどに、三月十日のほどに、内裏(うち)の賭弓のことありて、いみじくいとなむなり。をさなき人、後への方にとられて出でにたり。

「方かつ物ならば、その方のまゐもすべし」


とあれば、このごろはよろづわすれて、このことをいそぐ。舞ひならすとて、日々に楽(がく)をしののしる。出居(いでゐ)につきて、賭物(かけもの)とりてまかでたり。いとゆゆしとぞうち見る。

十日の日になりぬ。今日ぞここにて試楽(しがく)のやうなることする。舞の師、多好茂(おほのよしもち)、女房よりあまたの物かづく。おとこ方もありとあるかぎりぬぐ。

「殿は御物忌みなり」


とて、おとこどもはさながら来(き)たり。こと果て方になる夕暮れに、好茂(よしもち)、胡蝶楽舞ひていできたるに、黄なる単衣(ひとへ)ぬぎてかづけたる人あり。をりにあひたる心ちす。また十二日、

「後(しり)への方人さながらあつまりて舞はすべし。ここには弓場なくてあしかりぬべし」


とて、かしこにののしる。

「殿上人、数をおほくつくしてあつまりて、好茂(よしもち)、うづもれてなむ」


ときく。我は、いかにいかにとうしろめたく思ふに、夜ふけて、おくり人あまたなどして物したり。さて、とばかりありて、人々あやしと思ふに、はひいりて

「これがいとらうたく舞ひつることかたりになむものしつる。みな人の泣きあはれがりつること。あすあさて物忌、いかにおぼつかなからん、五日の日、まだしきにわたりて、事どもはすべし」


などいひてかへられぬれば、つねはゆかぬここちも、あはれにうれしうおぼゆることかぎりなし。




このテキストを評価してください。
役に立った
う~ん・・・
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。