manapedia
蜻蛉日記原文全集「この時のところに」
著作名: 古典愛好家
4,308 views
蜻蛉日記

この時のところに

この時のところに、子うむべきほどになりて、よき方えらびて、ひとつ車にはひのりて、一京ひびきつづきていと聞きにくきまでののしりて、この門のまへよりしも渡るものか。われはわれにもあらず、物だにいはねば、見る人、使ふよりはじめて、

「いと胸いたきわざかな。世に道しもこそはあれ」


など、いひののしるを聞くに、ただ死ぬるものにもがなと思へど、心にしかなはねば、今よりのちたけくはあらずとも、たえて見えずだにあらん、いみじう心憂し、と思ひてある に、三四日ばかりありて文あり。あさましうつべたましと思ふ思ふ見れば、

「このごろここにわづらはるることありて、えまゐらぬを、きのふなん平らかにものせらるめる。けがらひもやいむとてなん」


とぞある。あさましうめづらかなることかぎりなし。ただ、

「給はりぬ」


とてやりつ。使ひに人とひければ、

「をとこ君になん」


といふを聞くに、いと胸ふたがる。

三四日ばかりありてみづからいともつれなく見えたり。なにか来(き)たるとて見入れねば、いとはしたなくて帰ること、たびだびになりぬ。 





このテキストを評価してください。
役に立った
う~ん・・・
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。