manapedia
枕草子 原文全集「故殿の御ために」
著作名: 古典愛好家
4,195 views
マナペディア(manapedia)とは、中学校・高等学校で勉強する科目に特化した、マナビを共有し合う場です。たくさんのテキストの中からあなたにあったマナビを探したり、あなたが学習・勉強してきたマナビを形に残したりすることができます。テキストの内容に関しては、他の参考文献をご覧になり、ご自身の責任のもとご判断・ご利用頂きますようお願い致します。

故殿の御ために

故殿の御ために、月ごとの十日、経仏など供養ぜさせ給ひしを、九月十日、職の御曹司にてせさせ給ふ。上達部(かんだちめ)、殿上人いとおほかり。清範、講師にて、説くことはた、いとかなしければ、ことにもののあはれふかかるまじき、わかき人々、みな泣くめり。


果てて、酒飲み、詩誦(ず)しなどするに、頭の中将斉信の君の、

「月秋と期して身いづくか」


といふことをうちいだし給へりし。詩はた、いみじうめでたし。いかでさは思ひ出で給ひけむ。


おはします所にわけ参るほどに、立ち出でさせ給ひて、

「めでたしな。いみじう、今日の料にいひたりけることにこそあれ」


とのたまはすれば、

「それ啓しにとて、ものみさして参り侍りつるなり。なほいとめでたくこそおぼえ侍りつれ」


と啓すれば、

「まいて、さおぼゆらむかし。」


と仰せらる。
 

わざと呼びも出で、逢ふ所ごとにては、

「などかまろを、まことにちかくかたらひ給はぬ。さすがににくしと思ひたるにはあらず、と知りたるを、いとあやしくなむおぼゆる。かばかり年ごろになりぬる得意の、うとくてやむはなし。殿上などに、あけくれなき折もあらば、何事をか思ひいでにせむ」


とのたまへば、

「さらなり。かたかるべきことにもあらぬを、さもあらむのちには、えほめたてまつらざらむが、くちをしきなり。上の御前などにても、やくとあづかりてほめきこゆるに、いかでか、ただおぼせかし。かたはらいたく、心の鬼出できて、いひにくくなり侍りなむ」


といへば、

「などて。さる人をしもこそ、妻(め)よりほかに、ほむるたぐひあれ」


とのたまへば、

「それがにくからずおぼえばこそあらめ、男も女も、けぢかき人おもひ、かたき、ほめ、人のいささかあしきことなどいへば、腹立ちなどするがわびしうおぼゆるなり」


といへば、

「たのもしげなのことや」


とのたまふも、いとをかし。




このテキストを評価してください。
役に立った
う~ん・・・
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。