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枕草子 原文全集「宮の五節いださせたまふに」
著作名: 古典愛好家
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宮の五節いださせたまふに

宮の五節いださせたまふに、かしづき十二人、こと所には女御御息所の御方の人いだすをば、わるきことにすると聞くを、いかにおぼすにか、宮の御方を十人はいださせ給ふ。いまふたりは、女院、淑景舎(しげいさ)の人、やがてはらからどちなり。


辰の日の夜、青摺(あをずり)の唐衣、汗衫(かざみ)をみな着せさせ給へり。女房にだに、かねてさもしらせず、殿人には、ましていみじう隠して、みな装束したちて、くらうなりにたるほどに持てきて着、赤紐をかしうむすびさげて、いみじうやうじたるしろき衣、かた木のかたは絵にかきたり。織物の唐衣どものうへに着たるは、まことにめづらしきなかに、童(わらは)はまいてすこしなまめきたり。下仕まで出でゐたるに、殿上人、上達部おどろき興じて、小忌(をみ)の女房とつけて、小忌の君達は外にゐて物などいふ。

「五節の局を、日も暮れぬほどに、みなこぼちすかして、ただあやしうてあらする、いとことやうなることなり。その夜までは、なほうるはしながらこそあらめ」


とのたまはせて、さもまどはさず。木帳どものほころび結ひつつ、こぼれ出でたり。


小兵衛といふが赤紐のとけたるを、

「これ結ばばや」


といへば、実方の中将、よりてつくろふに、ただならず。

足引の山井の水はこほれるを いかなるひものとくるなるらむ

といひかく。年若き人の、さる顕証(けそう)のほどなれば、いひにくきにや、返しもせず。そのかたはらなる人どもも、ただうちすごしつつ、ともかくもいはぬを、宮司(みやづかさ)などは耳とどめて聞きけるに、ひさしうなりげなるかたはらいたさに、ことかたより入りて、女房のもとによりて、

「などかうはおはするぞ」


などぞささめくなり。四人ばかりをへだててゐたれば、よう思ひ得たらむにてもいひにくし。まいて歌よむとしりたる人のは、おぼろげならざらむは、いかでか。つつましきこそはわろけれ。よむ人はさやはある。いとめでたからねど、ふとこそうちいへ。つまはじきをしありくがいとほしければ、

うはごほりあはにむすべるひもなれば かざす日影にゆるぶばかりを

と、弁のおもとといふに伝へさすれば、消え入りつつ、えもいひやらねば、

「なにとか、なにとか」


と、耳をかたぶけて問ふに、すこしことどもりする人の、いみじうつくろひ、めでたしと聞かせむと思ひければ、え聞きつけずなりぬるこそ、なかなか恥隠るる心地してよかりしか。


のぼるをくりなどに、なやましといひていかぬ人をも、のたまはせしかば、あるかぎりつれたちて、ことにもにず、あまりこそうるさげなれ。舞姫は、相尹(すけまさ)の馬の頭の女(むすめ)、染殿の式部卿の宮の上の御おとうとの四の君の御腹、十二にていとをかしげなりき。


はての夜も、おひかづきいでもさわがず。やがて仁寿(じじう)殿より通りて、清涼殿の御前の東(ひんがし)の簀子(すのこ)より、舞姫をさきにて上の御局に参りしほども、をかしかりき。



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