manapedia
枕草子『にくきもの(急ぐことあるをりに来て~)』わかりやすい現代語訳と解説
著作名: 走るメロス
58,645 views
マナペディア(manapedia)とは、中学校・高等学校で勉強する科目に特化した、マナビを共有し合う場です。たくさんのテキストの中からあなたにあったマナビを探したり、あなたが学習・勉強してきたマナビを形に残したりすることができます。テキストの内容に関しては、他の参考文献をご覧になり、ご自身の責任のもとご判断・ご利用頂きますようお願い致します。

『にくきもの』

このテキストでは、清少納言が書いた枕草子「にくきもの」の一節の現代語訳・口語訳とその解説をしています。少し長いので2回にわたってお送りします。

原文

にくきもの。急ぐことあるをりに来て、長言するまらうと。あなづりやすき人ならば、

「後に」


とても、やりつべけれど、さすがに心はづかしき人、いとにくく、むつかし。硯に髪の入りて、すられたる。また、墨の中に、石のきしきしときしみ鳴りたる。

にはかにわづらふ人のあるに、験者もとむるに、例ある所になくて、外に尋ねありくほど、いと待ち遠に久しきに、からうじて待ちつけて、よろこびながら加持せさするに、このころ物怪にあづかりて困じにけるにや、居るままにすなはち、ねぶり声なる、いとにくし。

なでふことなき人の、笑がちにて、ものいたう言ひたる。火桶の火、炭櫃(すみびつ)などに、手のうらうち返しうち返しおしのべなどして、あぶりをる者。いつか若やかなる人など、さはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶のはたに足をさへもたげて、もの言ふままに押しすりなどはすらめ。さやうの者は、人のもとに来て、居とする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎちらして、塵はき捨て、居もさだまらずひろめきて、狩衣の前巻き入れても居るべし。かかることは、いふかひなき者の際にやと思へど、すこしよろしき者の、式部の大夫などいひしが、せしなり。

また、酒飲みてあめき、口を探り、鬚ある者はそれをなで、盃、異人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。また「飲め」と言ふなるべし、身ぶるひをし、頭ふり、口わきをさへ引き垂れて、童の「こう殿にまゐりて」など謡ふやうにする。それはしも、まことによき人のしたまひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。

続き:「ものうらやみし、身の上嘆き~」

現代語訳

にくらしいもの。急ぐことがある時にやって来て、長話をする客。容易に見下げることができる人ならば、

「後で。」


と言って、帰してしまうことができるだろうが、さすがに相手が立派で自分が気おくれするような人であれば、さすがにそれは感じが悪いので、面倒である。硯の中に髪が入ったままで墨がすられてしまうのもいらっとくる。また、墨の中で石がきしきしときしんだ音をたてるのもいらっとくる。

急な病人がて祷師を探しているときに、(祈祷師が)普段いる所にはいなく、あちこち訪ねて歩きまわるその間、(早く見つからないかと)待ち遠しく時間がかかっていたところ、祈祷師がようやくやってきたので、ほっとして加持祈祷をさせているときに、この祈祷師は最近、もののけに関わる案件が多くて疲れているのであろうか、座るとすぐに眠そうな声をだしているのはいらっとする。

特にこれといったことがない人が、笑っておしゃべりをしていること。火桶の火や炭櫃などにかざした手を、(寒いからといって)しきりにひっくり返して、温まっている人。いつ若々しい人などがそんな(はしたない)ことをしたか、いや、しない。年寄りじみた者は火桶の端にまで足をかざして、話をしながら(足を)すりあわせるようだ。そのような者は、人が集まっているところにやってきて、座ろうとする所を、まずは扇であちらこちらに仰ぎ散らして、そこにあったほこりを破棄捨てて、腰を下ろしても落ち着かずに狩衣の前を巻き込んで座るようなものに違いない。このようなことは身分の低い者がやることだと思うのだが、少し身分の高い、式部の大夫などと言うものがやっていた。

また、酒を飲み騒いで、口の辺りをこすって、髭のある人はそれをなでて、杯を人にとらせるような様子は、とてもいらっとくる。また、「飲め」ということだろうか、身震いをして、頭をふって、口をだらしなく曲げて、子どもに「こう殿にまゐりて」などと歌を歌っている。それが、とても立派でいらっしゃる方がやっていたのを見てしまったので、気に食わないと思うのだ。

続き:「ものうらやみし、身の上嘆き~」
次ページ:単語と文法解説


1ページ
前ページ
1/2
次ページ

このテキストを評価してください。
役に立った
う~ん・・・
※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。